一日の疲れを癒やすため、私はいつもお気に入りの音楽をヘッドホンで聴きながらリラックスする習慣があった。部屋の片隅に置かれた額縁の中には、家族や友人たちとの思い出の写真が並んでおり、どれも懐かしいものばかりだった。
その中には、数年前に亡くなった祖父との写真も飾られていた。祖父は私にとって特別な存在で、子供の頃はよく一緒に遊んだり、人生について語ってくれたりした。祖父が亡くなった時の悲しみは大きく、その思い出が詰まった写真は私にとって、心の拠り所だった。
ある晩、私はいつものようにヘッドホンをつけて音楽を聴きながら、リビングのソファに腰を下ろしていた。静かな夜に、耳に流れてくるメロディが心を落ち着かせ、ぼんやりと目の前の写真たちを見つめていた。
ふと、ヘッドホンから聞こえる音楽の中に、違和感を覚えた。音楽とは異なる何かが、かすかに混じっていたのだ。
「…あれ?」最初は気のせいだと思った。ノイズか何かだろうとヘッドホンを取り外し、周囲を確認したが、特に異変はない。再びヘッドホンをつけ、音楽を聴き直した。しかし、またその音が聞こえた。
「孝…孝志…」
それは、どこか懐かしい声だった。私は驚きと共に耳を澄ませた。音楽の中に、確かにその声が混じっている。信じられないことに、その声は亡くなった祖父のものだった。
「孝志…覚えてるか…?」
その瞬間、全身に冷たい感覚が走った。祖父は、幼い頃の私をよく「孝志」と呼んでいた。その声がヘッドホン越しに聞こえてくるはずはない。それでも、確かに祖父の声がそこにあり、私に語りかけてきた。
パニックになりそうな気持ちを抑えながら、私は写真立てに飾られた祖父との写真を見つめた。祖父はいつもの穏やかな笑顔でこちらを見つめていたが、その表情がどこか語りかけているように感じられた。
「お前は…ちゃんと覚えてるか…?」
その声が再び耳元で囁いた。音楽の中に混じるように、祖父の優しい声が確かに存在していた。
「おじいちゃん…?」私は思わず口に出したが、答えが返ってくることはなかった。ただ、音楽のメロディが流れ続けるだけだ。しかし、その声が聞こえた瞬間、私の心の中に、幼い頃の祖父との思い出が一気に蘇ってきた。
彼がよく連れて行ってくれた公園、語りかけてくれた教訓、そして最期に言い残した「また会おうな」という言葉。それらがまるで昨日のことのように鮮明に浮かび上がり、涙がこぼれた。
その後、私は何度もヘッドホンで音楽を聴いたが、再び祖父の声を聞くことはなかった。あの夜、写真を通して祖父が私に何かを伝えに来たのだろうか。それとも、ただの幻聴だったのか。今でもそれはわからないままだが、確かにあの夜、祖父の声を聞いたのは事実だ。
あの一瞬が、祖父からの最後のメッセージだったのかもしれない。
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