高校を卒業してから数年が経ったある日、私は実家でふと懐かしさを感じ、古い卒業アルバムを引っ張り出してみることにした。3年間過ごしたクラスメイトや、さまざまな行事の写真が詰まった一冊は、思い出を呼び起こすにはうってつけだった。大学に進学してからの新しい友達との生活に追われ、ここ数年はほとんどアルバムを開いていなかった。
リビングのソファに座りながら、私はアルバムを膝に広げた。ページをめくるたびに懐かしい顔や出来事が蘇る。体育祭、文化祭、修学旅行…それぞれの思い出が鮮やかに蘇り、少し前の自分がここにいるような気さえしてきた。
しかし、あるページをめくった瞬間、違和感を覚えた。ページに貼られていた写真が、どう見ても「覚えのない」瞬間を映していたのだ。
その写真には、私たちのクラスが学校の屋上で談笑している姿が写っていた。友人たちが楽しそうにおしゃべりしているのだが、私はその場面を全く思い出すことができなかった。私も写真の隅に写っているが、その時の記憶はまったくない。しかも、その日は学校の屋上が立ち入り禁止になっていたはずなのだ。
「こんな時あったっけ…？」思わず独り言を呟いてしまった。友達と屋上で集まった覚えはないし、ましてやカメラで撮られた記憶もなかった。
私はさらに不思議に思い、他のページも確認してみたが、その場面に関する他の写真は一切なかった。それなのに、なぜこの一枚がアルバムに入っているのか、全く理解できなかった。
数日が経ち、気になってクラスメイトの一人に連絡を取ってみた。
「ねえ、この写真覚えてる？屋上で撮ったやつなんだけど…」写真の画像を送ると、友人からすぐに返事が来た。
「え、これ…私たちがいつ屋上に行ったんだっけ？記憶にないなぁ…なんか変じゃない？」
彼女も全く覚えていないと言う。次に他のクラスメイトにも同じ質問をしてみたが、誰一人としてその瞬間を覚えている者はいなかった。みんな揃って「記憶にない」と口を揃えるのだ。
その写真は、明らかに私たちのクラスの生徒が写っている。しかし、そこに写る風景も、私たちが笑い合っている姿も、まるで別の世界のように感じられた。しかも、その写真の背景には、不自然なものが写っていた。それは、学校の屋上には存在しない「古びた時計台」だった。
その時、私は高校には時計台がないことに気づいた。なのに、写真にははっきりとその時計台が写り込んでいたのだ。違和感が次第に大きくなり、私はその写真が「本当に」私たちの高校で撮られたものなのかどうか、疑い始めた。
数日後、再びアルバムを確認していた時、奇妙なことに気がついた。その謎の写真があったページだけが、何度もめくったかのように古びて、端が少しだけめくれかかっていた。さらに、ページをめくるたびに、微かに「カサカサ」という音が聞こえる。
その音が気になって、私は思わず耳を近づけた。そして、耳をすますと、確かにそのページから「ページをめくる音」が微かに響いているのを感じた。まるで、誰かがそのページを繰り返しめくっているかのような音だった。
「なんでこんな音が…？」私はアルバムを閉じ、しばらくそれを見つめた。だが、不安が募る中でも、再びページを開いてみたくなる衝動に駆られた。
再びアルバムを開き、問題の写真を確認すると、今度はさらに奇妙なことに気づいた。写真に写るクラスメイトたちの表情が、微妙に変わっていたのだ。初めて見た時よりも、笑顔が硬くなり、まるでカメラを見つめているかのように私の方を見ている。
「こんなこと、あり得ない…」私は恐怖で手が震え、アルバムを閉じた。しばらくは怖くて再び開けることができなかったが、あの不気味な写真と、そのページから聞こえる謎の「めくる音」が、今でも頭から離れない。
あの写真は一体何だったのか？どうしてあの瞬間を誰も覚えていないのか？そして、何度もめくられていたあのページは、何を意味しているのか…。謎が深まるばかりで、今もその卒業アルバムには手を触れずにいる。
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