病院で聞こえた名前を呼ぶ声…誰もいない部屋から聞こえる囁きの正体とは?
その日、私は軽い手術を受けるために小さな病院に入院していた。入院といっても数日の予定で、手術自体も大したものではないと医者から説明を受けていた。病院は古いが清潔で、スタッフも親切だったので、特に不安を感じることはなかった。
手術は翌日に控えており、私の気持ちはどこか落ち着いていた。だが、病院の特有の静けさが時折耳に残り、なんとも言えない違和感を覚えていた。隣の部屋から聞こえる患者の咳や、廊下を通り過ぎる看護師の足音。そのどれもが、普段なら気にも留めない音なのに、静寂の中では異様に大きく聞こえてくる。
夜も更け、消灯時間が過ぎた頃、私はベッドに横になって眠ろうとしていた。外は雨が降り出し、窓に打ち付ける雨音が妙にリズミカルに響いていた。私はしばらく天井を見つめていたが、やがて眠気が襲ってきた。
「…タカシ…」
その時、不意に自分の名前が聞こえた。ぼんやりとした意識の中で、誰かが私の名前を呼んだ気がした。あまりにも自然な声で、一瞬、看護師が呼んでいるのかと思い、薄暗い病室の中で目を開けた。だが、部屋は静まり返り、誰もいない。
「気のせいだろう…」
そう思って、再び目を閉じようとしたが、今度ははっきりと耳元で聞こえた。
「タカシ…」
今度は確かに聞こえた。しかも、すぐ耳元で囁くように。それはまるで誰かが私のすぐそばに立って呼びかけているかのようだった。私は一気に体が冷たくなり、恐る恐る周りを見回したが、やはり誰もいない。
「…誰だ…?」
誰も答えるわけがない。部屋には私一人しかいないはずだった。それでも、どうしてもその声が消えず、まるで部屋の中にもう一人誰かがいるかのような感覚に襲われた。
怖くなって、ナースコールのボタンに手を伸ばそうとしたその瞬間、再び声が聞こえた。
「タカシ…こっちだよ…」
今度は部屋の隅から、私を呼ぶ声がした。まるで暗闇の中に何かが潜んでいるように感じた。全身が硬直し、私はベッドの上で動けなくなった。ただ、その声が部屋の中で響き続けていた。
「こっちだよ…タカシ…」
声は少しずつ近づいてきた。足音も気配もないのに、声だけがはっきりと私に向かって迫ってくる。心臓が激しく脈打ち、私は息をするのさえ忘れるほど恐怖に支配されていた。
突然、廊下の方から看護師が歩く音が聞こえてきた。足音が近づき、ドアが軽くノックされた。
「どうかしましたか?」優しい声が聞こえ、私は急いで看護師を呼び入れた。ベッドサイドに来た彼女に、私は震えながら「今、名前を呼ばれたんです…誰かが…」と説明した。しかし、看護師は不思議そうに私を見て、首をかしげた。
「この部屋には、あなたしかいませんよ。他に誰もいませんし、誰かが呼んだこともありません。」
そんなはずはない。あの声は確かに聞こえたのだ。私はその声が現実だったのか幻だったのか、ますます混乱した。しかし、看護師は「疲れているんでしょう。休んでください」と言って部屋を出て行った。
部屋に再び静寂が戻った。だが、声は聞こえなくなっていた。私は何とかその夜をやり過ごし、翌日無事に手術を受け、予定通り退院することができた。
それからしばらくの間、私はあの病院で聞いた「名前を呼ぶ声」を忘れられなかった。声の正体は一体何だったのか。誰かが私を呼んでいたのか、それとも何か他の存在がそこにいたのか。
後日、私は病院で働く看護師に、退院の際に何気なく「夜、誰かが名前を呼ぶことってあるんですか?」と尋ねてみた。すると、看護師は少し困ったように微笑んでこう言った。
「実は、あの部屋で『名前を呼ばれた』って言う患者さんが、たまにいらっしゃるんです。でも…それが何なのか、誰もわからないんですよ。」
その言葉を聞いた時、私は全身に鳥肌が立った。
あの夜聞こえた声は、一体何を伝えたかったのだろうか。答えは今もわからないままだが、あの病院には二度と戻りたくないと心から思った。
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