あれは、まだ高校2年生の時の話だ。放課後、私は教室に一人で残っていた。掃除当番の日だったが、クラスメイトたちは急いで帰る用事があると言って、私一人を残して去ってしまった。仕方なく、最後まで教室の片付けをしていた。
時間はすでに6時を過ぎていた。夕日が校舎を赤く染め、教室には微かな夕焼けが差し込んでいた。外はもうほとんどの生徒が帰り、廊下は静まり返っている。校庭ではグラウンド整備をしている音が遠くから聞こえるだけだった。
教室の窓を拭きながら、ふと外を見ると、静まり返った校庭と夕焼けの景色が広がっていた。日が沈むにつれて、だんだんと暗くなっていく空を眺めていると、少しだけ不安な気持ちが湧いてきた。いつもは賑やかな学校が、こうして誰もいなくなると、どこか不気味に感じる。
それでも、片付けを終わらせて早く帰ろうと思い、急いで作業を続けていた。その時だった。
「…ケンタ…」
突然、耳元でかすかに囁くような声が聞こえた。私は一瞬、何が起こったのかわからず、動きが止まった。教室は静まり返っていて、窓の外も人気はない。だが、確かに私の名前を呼ぶ声が聞こえたのだ。
「気のせいだろう…」
そう自分に言い聞かせ、再び掃除を続けようとしたが、どうにも背中に違和感が残った。誰かが見ているような気がして、心が落ち着かない。私は窓の外を見回し、そして教室の入り口も確認したが、誰もいない。
「…ケンタ…」
今度は、はっきりと聞こえた。教室のどこかから、確実に私の名前を呼ぶ声だ。しかも、どこからともなく聞こえるその声は、異様に近く感じられる。背筋が冷たくなり、私は思わずその場に立ち尽くした。
声の出どころを探るように教室を見回したが、やはり誰もいない。窓の外も廊下も、すべてが静寂に包まれていた。
心臓が早鐘を打つように高鳴り、手汗がじわりと滲む。何かがおかしい。このままではいけないと思い、掃除を早く終わらせようと、足早にモップを片付け、荷物をまとめた。
だが、教室を出ようとしたその瞬間、背後から再び声が響いた。
「ケンタ…こっちだよ…」
今度は明らかに教室の奥から聞こえた。反射的に振り返ると、夕日が差し込む教室の隅、窓際の席に誰かが座っているのが目に入った。
「え…?」
最初は目の錯覚かと思った。だが、確かにそこに人影があった。私の席の隣に、誰かが座ってこちらをじっと見つめている。顔はよく見えなかったが、その存在感だけは確実に感じ取れた。
全身に鳥肌が立ち、息が詰まるような感覚が襲ってきた。体が硬直して動けない。視線をそらすことができず、その人影と見つめ合ったまま、しばらくの間、時間が止まったように感じた。
「ケンタ…」
その声が再び囁いた瞬間、私は恐怖に耐えきれず、叫び声を上げて教室を飛び出した。廊下を全力で走り抜け、下駄箱まで一気に駆け込んだ。振り向く勇気もなく、ただ必死に逃げ続けた。
外に出ると、すでに日は沈み、校庭は闇に包まれていた。冷たい風が吹き抜け、私はようやく立ち止まった。心臓が激しく脈打ち、呼吸が荒くなる。
「今のは…なんだったんだ…?」
信じられない思いで、私は校舎を見上げた。夕暮れの光に包まれていた校舎が、今は暗闇に飲み込まれていた。あの教室で見た人影が本当に何だったのか、今でもわからない。誰が、私の名前を呼んでいたのかも。
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