放課後、教室にはいつも通り、まだ数人の生徒が残っていた。夏が近づく夕方、外はオレンジ色に染まっていて、部活が始まるまでの暇つぶしのように、教室では心霊話が盛り上がっていた。
「今夜、みんなで心霊スポットに行こうぜ!」リーダー格のショウが声を上げた。いつも何かしら無茶をする彼の提案に、教室の仲間たちは大きな声で賛同していた。
「お前、あの廃病院のこと知ってるか?夜になると女の幽霊が出るって噂だぞ!」
「マジかよ、そんなん怖くねーし!」と、友人たちはショウの後に続くように、冗談交じりに怖い話をする。誰もが怖さと楽しさを混ぜ合わせ、ちょっとした冒険心に火がついていた。
しかし、そんな中、一人だけ静かにしていたのが、クラスの片隅に座っていたユイだった。彼女は霊感が強いことで知られていたが、普段はあまりその話をすることはなく、控えめな性格で目立つ存在ではなかった。
「やめたほうがいいよ。」ユイがぽつりと言った。
彼女の静かな言葉に、教室が一瞬静まり返る。ショウが笑いながら「なんだよ、ユイ。怖いのか?」とからかったが、ユイは真剣な表情で続けた。
「そこ、危ない。前に行った人が…帰ってこれなかったことがあるって聞いた。幽霊の噂は本当だし、私は実際に見た。」
その言葉に、教室内の雰囲気が少し変わった。ユイが真剣に話すと、彼女の霊感の強さを知っているクラスメイトたちは、少しだけ怯えた表情を浮かべる。しかし、ショウは全く気にしない。
「お前、そんなこと言って俺たちをビビらせようとしてるだけだろ?大丈夫だって!俺たちみんなで行けば怖くないし、何も起きやしないよ!」
ショウの強気な態度に、他のクラスメイトも少しずつ笑顔を取り戻した。
「そうそう!幽霊なんてただの噂だろ。ユイも来ればいいじゃん!」
「絶対行かない方がいいよ…」ユイはもう一度警告するように言ったが、結局、彼らは誰も耳を傾けなかった。
その夜、ユイを除いた数人のクラスメイトたちは、廃病院に行くことになった。リーダーのショウを先頭に、誰もが興奮と緊張を抱えながら、心霊スポットに向かった。ユイは、家に帰りながらも不安な気持ちを拭い去ることができなかった。彼女には、あの場所に「何か」がいることが分かっていたからだ。
次の日、教室に行くと、昨夜心霊スポットに行ったメンバーたちが大笑いしながら話していた。
「いや、マジでビビったよ!暗くなってから急に風が吹いてさ、なんか人影みたいなの見えたんだよ!」
「本当は怖かったんだろ?」ショウが得意げに笑いながら、昨夜の出来事をみんなに話していた。
「でも、何も起きなかったし、やっぱり噂は大したことなかったな!」
クラスメイトたちは、昨夜の恐怖体験を面白おかしく語っていたが、ユイはその話に加わることなく、ショウの方をじっと見つめていた。彼の背中には、黒い影がまとわりついているように見えた。ユイは嫌な予感を感じ、ショウに近づいて話しかけた。
「ショウ、昨日の場所で、何か連れてきたかもしれない。お祓いに行った方がいいよ…」
彼女の真剣な言葉に、ショウは一瞬だけ表情を強張らせたが、すぐに笑い飛ばした。
「おいおい、冗談はやめてくれよ。俺は全然平気だって。そんなもん、何も感じないし、見えないよ!」
ユイはそれ以上言うことができなかった。彼が本当に信じていないことが分かったからだ。だが、彼女には「何か」が確実に見えていた。
翌日から、ショウの様子が明らかにおかしくなり始めた。クラスの中でも一番元気で明るいはずの彼が、急に無口になり、目の下には大きなクマができていた。誰かが話しかけても、ぼんやりと遠くを見つめているだけで、返事もまともにしない。
「どうしたんだよ?昨日までは元気だったのに…」クラスメイトたちも心配し始めたが、ショウはただ首を横に振るだけで何も答えなかった。
昼休みになると、彼は教室の隅でじっと座っていた。何かを気にしているようで、時々誰もいないはずの方向を見つめている。その姿を見て、ユイは胸騒ぎが止まらなかった。
放課後、ユイは意を決してショウに声をかけた。
「まだついてるよ…。本当にお祓いに行った方がいい。放っておくと、もっとひどくなる。」
しかし、ショウは疲れ切った顔で、「もう手遅れだよ」と呟いた。その声は震えていて、彼の目には恐怖が宿っていた。
次の日、ショウは学校に来なかった。それからも彼が登校することはなく、彼の家族が言うには「夜中に突然叫び出し、部屋に閉じこもったまま出てこない」状態だという。
ユイは後悔していた。あの時、もっと強く止めるべきだったのかもしれないと。
ショウの背中にいた「何か」が、彼に何をしたのか、ユイにはもうわからなかった。ただ一つ確かなのは、あの廃病院に行った時から、ショウの人生は変わってしまったということだった。
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