アキラの話はいつも怖い。でも、その恐怖には独特の魅力があって、気づけばいつも引き込まれてしまう。喫茶店で、リョウと私が向かい合って座るこの時間が、何より楽しみになっていた。
「怖いけど面白いんだよな…」私は心の中でそう思っていた。アキラが語る恐怖の体験談は、どれも現実感があり、まるで自分がその場にいるかのような感覚にさせられる。ただ一つ、私は絶対に彼の体験を「自分ではしたくない」と心の底から思っていた。霊感を持つ彼の目を通して見える世界が、どれだけ異常で、得体の知れないものか…それを実際に経験するのは、想像するだけで身の毛がよだつからだ。
「また新しい話を聞けるのは嬉しいけど、絶対に自分はそういう場面に遭遇したくない。」そんなことを考えながら、アキラの話を心待ちにしていた。
そして、その日も喫茶店で、アキラが少し微笑みながら、話を切り出した。
「今日は、俺が高校生の頃に初めて心霊スポットに行った時の話をしようか。当時は霊感があるってことは、なんとなく自覚していたんだけど、正直、あまり深く考えてなかったんだ。」
アキラが語り始めると、私とリョウは一気にその世界に引き込まれた。
「高校生の頃、友達と肝試しが流行っていた時期があってさ。いろんな心霊スポットが話題になってたんだ。俺たちの間で噂になっていた場所は、山奥にある廃墟だった。元は誰かの家だったらしいんだけど、家族全員がそこで謎の死を遂げたとかで、今は完全に放置されている場所だったんだ。」
アキラは少し遠い目をして続けた。
「その頃の俺は、霊感があるって自覚はあったけど、それがどういうことか深く理解していなかった。霊感があっても、それが何かを見た時にどれだけ恐ろしいかなんて、実感したことがなかったんだ。だから、友達に誘われてその廃墟に行くことにも、特に反対することはなかった。むしろ、みんなと一緒なら大丈夫だろうって軽い気持ちだった。」
私たちは息を呑んだ。アキラのその頃の無防備さが、今の彼からは想像できない。
「夜の10時頃だったかな。俺たちは集まって、大学生の友達の運転でその廃墟に向かった。道は薄暗く、途中からは街灯もなかった。周りは山に囲まれていて、完全に静寂に包まれていたんだ。到着すると、目の前にその廃墟があった。まるで時間が止まったかのように、そこだけぽっかりと空間が歪んでいるような感覚だった。」
アキラの語り口は静かだが、その静けさが逆に私たちに緊張感を与えた。
「廃墟の入口に立った瞬間、俺は背中に冷たいものを感じた。でも、当時はそれを無視していたんだ。『怖がってる自分』を見せたくないって気持ちもあったし、他の連中も楽しそうにしていたからさ。それに、自分の霊感がどれほど危険かなんて、まだ理解していなかったからね。」
アキラは小さく笑い、続けた。
「廃墟の中に入った瞬間、空気が変わったんだ。外の静けさとは違って、どこからともなく、まるで何かが動いているような音が聞こえ始めた。友達は『風だろう』って笑ってたけど、俺にはその音が風じゃないことがわかっていた。でも、まだその時は本当に危ない状況だって気づいてなかった。」
リョウが少し身を乗り出して聞いた。「それ、何の音だったんだ?」
アキラはゆっくりと首を振った。「足音だった。俺たち以外に誰もいないはずなのに、廊下を誰かが歩いているような、重い足音が聞こえてきたんだ。でも、振り返っても誰もいない。俺は内心、焦り始めたけど、友達には言えなかったんだ。みんなは楽しそうにしてたから。」
「中に入ってしばらくして、俺たちはある部屋にたどり着いた。その部屋は他の部屋と違って、床が抜けている箇所があって、そこだけが異様に暗くて、まるで何かがそこに吸い込まれているような感覚があった。俺は一瞬、そこに立ち入るのをためらったんだ。だけど、みんなが『大丈夫だろ』って先に進んだから、俺もついていった。」
アキラの話を聞いているだけで、私たちもその場の不安な空気を感じ始めていた。
「その部屋の中央に立った瞬間、背中がぞわっとしたんだ。まるで『何か』が俺をじっと見ているような感覚が襲ってきた。でも、その『何か』は姿を見せなかった。ただ、ずっと俺の背後にいたんだ。」
アキラの声は少し低くなり、私たちはさらに緊張感を高めた。
「そして次の瞬間、俺の友達が突然立ち止まって言ったんだ。『おい、なんだよこれ…誰かいるのか?』って。俺はその言葉を聞いて振り返ったけど、やっぱり誰もいない。だけど、その友達は何かを見ているような目つきで、一点をじっと見つめていた。」
「俺たちはその場で立ち尽くして、しばらく何も言えなかった。その時だった。目の前にあった暗闇の中から、急に何かが動き出したんだ。」
「何が…?」リョウが聞いた。
「それは、ただの影だった。でも、その影はただの暗さじゃなかった。上半身だけが見えるその影が、床からスーッと浮かび上がってきたんだ。俺は息が止まった。霊感があるって自覚はあったけど、あの時初めて『本物の霊』を目の前に見たんだ。」
アキラの話に、私たちは全身の血が凍りつくような感覚を覚えた。
「その影はゆっくりと動き出して、俺の方に近づいてきた。何も言えなかった。ただ、その影の目が俺をじっと見つめている感覚があったんだ。そして、次の瞬間…その影が突然消えた。」
アキラは深いため息をつき、話を終えた。
「結局、俺たちはそのまま何も言わずに廃墟を出た。それ以来、俺は心霊スポットには近づかなくなった。あの時感じた恐怖は、単なる噂じゃなく、本当に存在する何かだったってことを、初めて理解したんだ。」
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