静かな喫茶店で、いつものように私とリョウはアキラの話を聞いていた。カップから立ち昇るコーヒーの香りが漂う中、アキラが話し始めると、その声に自然と引き込まれる。
「ある日、また相談が来たんだ。依頼主は40代の女性で、ナオミさんって人だった。彼女は一人暮らしの家で、見えない何かを感じるようになったって話してた。」
私は少し身を乗り出した。こういう話はいつ聞いても背筋が寒くなる。
「見えない何か?」リョウが首をかしげる。「姿が見えないってこと?」
アキラは頷き、続けた。「そう、姿は見えない。でも、確かにいるって感じるんだと。ナオミさんは特に夜になると、その気配が強くなって、息苦しくなるほどだって言ってた。」
「怖いな…」私はそう呟きながら、コーヒーを一口飲んだ。
「それで、彼女に頼まれたんだよ。『家に来て、何がいるのか見てほしい』ってね。」アキラは淡々と話しているが、その内容はどうにも不気味だ。
「それで行ったのか?」リョウが興味津々で聞いた。
「もちろん。夕方に彼女の家に行ったんだ。家は普通に見えたけど、玄関に入った瞬間に何かが違うと感じた。空気が重くて、まるで何かに圧迫されてるような感じがしたんだ。」
その言葉を聞いて、私は思わず背筋を伸ばす。喫茶店の温かい雰囲気が一瞬薄れるような気がした。
「家の中を調べ始めたんだが…リビングの片隅に妙な気配を感じた。そこに『何か』がいた。見えたんだ、俺には。でも、依頼主には見えていなかったみたいで、彼女は俺の後ろに隠れてたよ。」
アキラの話を想像すると、何とも言えない不安感が湧いてくる。
「見えたって、何が見えたんだ?」私は思わず尋ねた。
「そこにいたのは、人間じゃないものだった。体は歪んでいて、異常に長い腕を持ってた。顔は…真っ黒な空洞だ。空洞の中で何かが渦巻いているように見えたよ。」
「うわ、それは…」リョウが小さな声で呟く。
アキラは一口コーヒーを飲み、少し間を置いた後、続けた。「そいつは動かなかった。ただ、じっと俺たちを見下ろしていた。顔がないのに視線を感じた。まるで俺たちの心の中まで見透かしているような感覚だったんだ。」
私はゾクッとした。リョウもいつになく神妙な顔をしている。
「依頼主はそれを見てたわけじゃないんだよな?」リョウが恐る恐る聞いた。
「そうだ。彼女には見えていなかった。でも、俺が説明した瞬間、彼女の顔は青ざめて震えだしたよ。それにしても、あの存在はただそこにいるだけで、家全体がそいつに支配されている感じがした。」
アキラの言葉に、私は自然と冷たい汗がにじむのを感じた。
「その後はどうしたんだ?」リョウが慎重に聞いた。
「俺はすぐにお祓いを勧めたよ。彼女はすぐにその場を離れた。でも、最後まで何がきっかけであんなことが起こったのか、彼女は話さなかったんだ。」
「結局、その『もの』の正体って何だったんだ?」私がそう聞くと、アキラはゆっくりと首を振った。
「わからない。俺が見たのは、家に取りついていた『何か』の姿だった。でも、依頼主が感じていたものが何だったのかは、彼女自身しか知らない。今でも謎だよ。」
喫茶店の穏やかな空気が、少しだけ重く感じられた。アキラが見たもの、ナオミが感じたもの、それは一体何だったのか――誰にもわからないままだ。
リョウは黙り込んだまま、カップの底を見つめていた。私もまた、何とも言えない静寂に包まれた。アキラの話の続きを聞く気には、もうなれなかった。
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