診察室は静かで、いつも通りの穏やかな空気が漂っていた。しかし、目の前に座る患者は明らかに緊張しており、ため息をつきながら口を開いた。
「先生、最近ものすごく怖い夢を見たんです。」
私は彼の表情を見て、静かに話を促した。
「どんな夢だったんですか?」
彼は少し考え込んでから、話を始めた。
「夢の中で、気がつくと僕は水の中にいるんです。最初はパニックになって、とにかく水面に上がらなきゃって思って必死で泳ごうとしました。でも……その時、足に何かが絡んできて、引っ張られたんです。」
彼はその時の感情を思い出し、少し身震いした。
「足を引っ張られたんですね。何か気づいたことはありましたか?」
「そうなんです……最初は何が起きているのか全くわからなかったんです。ただ、足を誰かが掴んでいて、動けなくて。振り向いてみたら、そこには見知らぬおばあさんがいたんです。すごく怖い顔をしていて……怒っているのか、泣いているのか、それとも狂っているのか、もう表情が歪んでいて。」
彼はその時の光景を頭の中で再生するかのように話し続けた。
「おばあさんがいたんですね。その時、どんな感情が湧いてきましたか?」
「正直、パニックでした。怖くてたまらなくて、とにかく水面に向かって逃げようとしたんです。でも、おばあさんは僕の足をしっかりと掴んでいて、どれだけ力を入れても離してくれなくて……まるで、僕をそのまま水の中に引きずり込もうとしているように感じました。」
彼の声は震えていて、その夢がどれだけ強烈だったかが伝わってきた。私はその感覚をさらに掘り下げてみた。
「おばあさんは何か言葉を発していましたか?それとも、ただ黙って足を引っ張っていたんですか?」
「黙っていました……でも、ただその顔を見ただけで、ものすごく恐ろしい気持ちになりました。何かを訴えているような感じもしたけど、僕には理解できない。ただ、その目が、僕を見据えていて、絶対に足を離さないっていう強い意志を感じました。」
彼の話はどんどん緊迫感を増していた。私はその夢の意味について、彼自身がどう感じているかを知りたくなり、質問を続けた。
「そのおばあさんを見た時、何か思い当たることはありましたか?過去の経験や、何か関連する出来事など。」
彼は少し考え込んでから首を振った。
「特におばあさんに関する記憶はないんです。ただ、その夢を見てから、なぜか頭に残っていて……あの顔を思い出すだけで鳥肌が立つんです。」
彼の話を聞きながら、私はその夢が何を象徴しているのかを探るため、さらに深く掘り下げた。
「おばあさんがあなたの足を掴んで離さないというのは、もしかすると現実で感じている何かが、あなたを縛りつけているような感覚を映し出しているのかもしれませんね。最近、何か大きなストレスや重荷を感じることがありましたか?」
彼はしばらく黙り込んでから、静かに話し始めた。
「そうかもしれません……仕事で大きなプロジェクトを抱えていて、ずっとプレッシャーを感じていました。もしかしたら、そのストレスが夢に現れているのかもしれないですね。何かに足を引っ張られて、前に進めないような感覚が現実でもあるんです。」
彼は夢を通じて、現実のストレスや重圧と向き合っていることに気づき始めたようだった。
診察室を後にする彼の背中を見送りながら、私はその夢の強烈な印象に考えさせられた。水中で足を引っ張る見知らぬおばあさん――その存在は彼の無意識にある恐怖や、現実の重荷を象徴しているのかもしれない。彼がその足を引っ張る力から解放される日は近いのだろうか。
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