私が高校生の頃の話だ。当時、スマホで音楽を聴くのが主流になる少し前、みんながMP3プレイヤーを使っていた。音楽好きの私は、自分専用のMP3プレイヤーが欲しくて、ある日、ネットオークションで中古品を見つけた。見た目は少し古かったが、レビューが良く、価格も手頃だったため、すぐに注文した。
数日後、プレイヤーが届いた。見た目は想像以上に綺麗で、すぐに使える状態だった。中には前の持ち主が消し忘れた音楽ファイルが何曲か入っていた。最初はそれを全て削除しようと思ったが、どんな曲が入っているのか気になり、一度聴いてみることにした。
再生ボタンを押すと、最初に流れてきたのは不思議な音だった。音楽ではなく、雑音のような微かなノイズ――しかし、その奥で、かすかに人の声が聞こえる。
「……ここは……どこ……?」
それは、若い女性の声だった。言葉の端々がノイズにかき消され、はっきりとは聞こえなかったが、どこか怯えているような雰囲気を感じた。
「なんだ、これ…?」
不気味なものを聴いてしまった気がして、すぐに停止ボタンを押した。しかし、妙な好奇心が湧き上がり、もう一度再生してみた。今度は少し違う音が聞こえた――
「……逃げられない……もう、戻れない……」
その声は、次第にすすり泣きへと変わっていった。ノイズの隙間から、泣き声と共に、何かを叩く音が微かに聞こえる。まるで、どこかの扉を必死に叩いているような音だった。
私はその場で再生をやめ、すぐにプレイヤーを初期化しようとした。しかし、ファイルを消そうとすると、画面にエラーが表示され、何度やっても削除できない。
「……嘘だろ?」
気味が悪くなり、電源を切ろうとしたが、電源ボタンが反応しない。焦って何度も押したが、プレイヤーは再び勝手に再生を始めた。
イヤホンから、またあの女性の声が聞こえてきた。
「……お願い……誰か……助けて……」
その瞬間、背筋が凍るような寒気が走った。まるで、イヤホンの中で誰かが直接訴えかけてくるように感じた。
「……ここにいるの……ここに……」
その声が続くと同時に、プレイヤーの小さな画面に、奇妙な文字列が現れた。乱れたコードのような文字――いや、それは言葉だった。
「見つけた」
私は慌ててイヤホンを引き抜き、MP3プレイヤーを放り投げた。息を整える間もなく、再び画面を確認すると、プレイヤーは何もなかったかのように真っ黒な初期状態に戻っていた。あの不気味な音声ファイルも、消えてしまっていた。
「ただのバグだったのか……?」
そう思いたかったが、どうしてもあの声のことが頭から離れない。しかも、それ以来、私は奇妙な現象に悩まされるようになった。
夜になると、どこからともなく、あのすすり泣きが聞こえるのだ。
「……助けて……ここから出して……」
イヤホンをしていないのに、耳元で囁かれるようなその声。まるで、プレイヤーの中にいたはずの声が、今は私の近くにいるかのようだった。
怖くなった私は、MP3プレイヤーを処分しようとした。しかし――それを捨てた翌日、なぜか机の上に戻ってきていたのだ。
「あれ、どうして……?」
私は恐怖に震えながら、再びプレイヤーの電源を入れた。画面には、何も入っていないはずのプレイリストに、新しいファイルが一つ追加されていた。
「……助けて……」とだけ表示されているそのファイル。
もう二度と再生するつもりはない。しかし、時々、イヤホンをつけていないのに耳元でかすかな声が聞こえる。
「……見つけた……次はあなたの番……」
今でも、そのMP3プレイヤーは私の部屋のどこかにある。私にはもう確かめる勇気はない――それが再び動き出した時、何が起こるのかが怖くてたまらない。
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