それは、ある日の通学途中での出来事だった。私はいつも通り、駅へ向かう道を歩いていた。朝のラッシュで通勤通学の人たちがせわしなく歩いている。
その日も、特に何か違うことがあったわけではない――あの人に会うまでは。
駅に向かう途中の交差点で信号待ちをしていた時、一人の女性が私の視界に入った。30代くらいの女性だろうか。シンプルな服装に、黒のトートバッグを肩にかけている。
彼女は、私の方を向いて笑っていた。
「……誰だ?」
見覚えのない女性だが、笑顔を浮かべたまま、じっと私を見ている。その笑顔がどこか不自然で――感情がまるで感じられないのだ。普通、笑うときには表情が柔らかくなるはずなのに、彼女の笑顔はまるで仮面のようだった。
目の奥に光がなく、口元だけが不自然に引きつっている。
「誰かと間違えてるのかな……」
そう思いながら、私は視線を逸らし、信号が変わるのを待った。しかし、彼女の笑顔がどうしても頭に残り、再びチラッと見てしまった。
すると――彼女はまだ笑顔のまま私を見つめていた。
その笑顔はまるで、人形が張り付けられたように同じ表情を維持している。
不気味に感じた私は、急いで信号を渡り、彼女から離れようとした。だが、どうしても後ろが気になってしまい、ふと振り返ると――
彼女も信号を渡り、こちらに向かって歩いてきていた。
笑顔を崩すことなく、まっすぐ私を見つめながら。
「……なんだよ、あれ……」
背中に冷たい汗が流れるのを感じながら、私は駅へ向かって足を速めた。何かがおかしい――普通の人じゃない。何かに見られているような、言葉にできない不気味さが私を包んでいた。
ホームにたどり着き、ほっと一息ついたが――
彼女はそこにもいた。
向かいのホームに立ち、私の方を向いて同じ笑顔を浮かべている。あの無機質な笑顔。
「……なんで……?」
震える手でスマホを取り出し、ホームのベンチに座った。彼女の方を見ないようにしても、あの笑顔が脳裏にこびりついて離れない。
電車が来て、乗り込もうと立ち上がった瞬間――
ふと向かいのホームを見ると、彼女の姿は消えていた。
「……気のせいだったのか?」
私は安堵し、電車に乗り込んだ。だが、車内のドアが閉まる寸前――
目の前のドア越しに、あの笑顔が現れた。
ガラス越しに見える彼女は、やはり無機質な笑顔を浮かべたまま、じっとこちらを見つめていた。
私はその場に立ち尽くし、冷や汗が止まらなかった。
電車が動き出し、彼女の姿は次第に遠ざかっていったが――その笑顔は、今も頭から離れない。
まるで、彼女がどこかで今も見つめているような気がして。
あの日以来、私は駅へ行くのが怖くなった。あの笑顔がまた現れるのではないかと――今でも、無機質な笑顔の不気味さが私を取り囲んでいる。
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