怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

一人暮らしの物音 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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奇妙な物音

タカシは都内のワンルームマンションで、一人暮らしを始めて半年が経っていた。初めての一人暮らしは気楽で快適だと思っていたが、ある日から妙な物音に悩まされるようになった。

最初は気にすることもなかった。壁や床が古いため、夜中にどこかが軋む音がしても「ただの建物のゆがみだろう」と考えていた。しかし、それが毎晩、同じ時間帯に聞こえると気づいてから、タカシは不安を覚えるようになった。

――コト……カタン……

深夜2時を過ぎたあたりに、部屋のどこかで必ず小さな音が響く。それはまるで、誰かがそっと物を動かしたかのような音だった。

確認するも異常なし

ある夜、タカシは音の正体を確かめようと決心し、夜更かしをして待つことにした。部屋は静まり返り、時計の秒針の音だけが響く。深夜2時を過ぎた頃――

――コト……カタ……

まただ。音は確かに聞こえる。タカシは息を潜め、慎重に部屋の隅々まで確認した。冷蔵庫、食器棚、クローゼット、窓……だが、どこにも異常はなかった。

「……気のせいか?」

そう思いながら布団に戻ろうとした瞬間――

――カサ……カサ……

今度は、背後から何かが微かに動く音がした。

タカシは心臓が凍りついたような感覚に襲われ、思わず振り向く。だが、そこには何もない。部屋の中は普段通り、静寂に包まれているだけだった。

「……おかしいな……」

頭の中に不安がよぎり始めた。

見えない「誰か」の存在

それからというもの、物音は徐々に頻度を増し、タカシの日常を侵食していった。電気を消して眠ろうとすると、キッチンから食器が揺れる音が聞こえる。バスルームの方からも、シャワーカーテンを引くような音がする。

明らかに誰かがいる――それも、目に見えない「何か」が。

タカシは何度も友人を呼び、部屋を見てもらったが、誰も音を確認することはできなかった。友人たちは口を揃えて「気のせいじゃない?」と言うだけだったが、タカシには確信があった。自分の部屋には、何かが潜んでいる――。

深夜の来訪者

そして、ある夜。タカシはベッドでうとうとし始めた時、不意に感じた。

――誰かが部屋の中にいる。

部屋の空気が異様に重くなり、肌が粟立つような不快感に包まれる。暗闇の中、タカシはふいに背中を向けたままの状態で気配を感じた。

――誰かが、すぐ後ろに立っている。

タカシは布団の中で体を縮め、振り向く勇気を出せないまま、ただじっとしていた。だが、その時――

――カタ……トン……

床の上で何かが動いた音が聞こえた。さらに、何かがゆっくりと近づいてくる気配を感じる。

そして――

――トン……トン……

音は、タカシのベッドのすぐ横で止まった。

視線の先

恐怖に体が硬直する中、タカシは目を開け、ゆっくりと首を動かして横を見た。

――そこには、誰もいなかった。

だが、確かに「何か」がそこにいるという感覚は消えない。見えないそれが、じっと彼を見下ろしている。

タカシは汗だくのまま、一気に布団を跳ね除け、電気のスイッチを押した。眩しい光が部屋全体を照らす――だが、何もおかしなところはない。

「……もう耐えられない。」

タカシはその晩、明け方まで電気をつけたまま過ごし、何度も時計を見ながら夜が明けるのを待った。

最後の音

その翌日、タカシは引っ越しを決意した。もうこの部屋にいることはできない。

荷物をまとめ、管理会社に退去を連絡し、最後の夜を迎えた。引っ越しの準備は終えたが、不安を拭えないまま、最後の一晩だけここで寝ることにした。

――カタ……

その夜も、音は鳴った。しかし、今度の音はこれまでと違う。「誰か」がドアを開けようとする音だった。

タカシは目を開けた。

――玄関の方で、ドアノブがゆっくりと回る音が聞こえたのだ。

ガチャリ――。

「……誰……?」

その瞬間、部屋全体が静寂に包まれた。物音も気配も、すべて消え去り、部屋にはただ深い静けさだけが残った。

それが、タカシがこの部屋で聞いた最後の音だった。

翌朝、タカシは無事に引っ越しを終え、新しい生活を始めた。だが、夜になると今でも思い出す。あの部屋の静けさと、最後の夜に聞いたドアノブが回る音。

そして――今もふと、不安になる。

「……あの音が、いつかまた聞こえてきたら……?」



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