小学生の頃、僕の下校路に2週間だけ現れた奇妙な露店があった。そこに並んでいたのは、不気味な人形や怪しいキーホルダーばかりで、正直、誰も欲しいとは思えない代物だった。普通の駄菓子屋のような明るい雰囲気とはほど遠く、不気味なオーラが漂っているように感じた。
それなのに、店主はやたらと明るく、いつも笑顔いっぱいだった。
「いらっしゃい、いらっしゃい! 可愛いお人形とカッコいいキーホルダーだよ~」
子どもたちが通りかかるたびに、店主はそう声をかけるが、誰も興味を持たなかった。僕も毎日その店の前を通るたび、内心「なんか気持ち悪いな」と思っていた。
そんなある日、学校で噂が広まり始めた。
「あの露店の商品、全部呪われてるらしいよ」
「人形とか、キーホルダーとか、持って帰ったら絶対ヤバいことになるんだって」
そんな噂が教室中に広がると、ますます僕はその露店が気味悪くなった。もともと気持ちの悪い商品ばかりだったし、「呪われていてもおかしくない」とさえ思った。誰もあんな商品を買うはずがない――そう信じていた。
しかし、その予想は外れた。
ある日の帰り道、クラスメイトのタカシが露店でキーホルダーを買っていたのだ。骸骨が不気味に笑っているデザインのもので、見ただけでゾッとするような代物だった。
「本当に呪われてるか試してみるんだ!」
そう言って、タカシは楽しそうにキーホルダーを握りしめて帰っていった。
次の日、タカシの様子は一変していた。
「悪夢を見て、ぜんぜん寝れなかった」
目の下にはクマができていて、元気だった彼がすっかり疲れた顔をしていた。タカシは笑い飛ばそうとしていたけど、その笑顔はどこか引きつっていた。
「やっぱりあのキーホルダー、呪われてるんだ……」
クラスメイトたちも不安そうな顔をしていた。僕はますますあのキーホルダーのことが怖くなった。
そんな中、別のクラスメイトのケンが興味を持ち、「そのキーホルダー、貸してくれよ」と言い出した。
タカシも少しほっとしたような顔で、「いいよ」と言って、ケンにキーホルダーを渡した。その夜――ケンもまた、タカシと同じ体験をすることになる。
「俺もひどい悪夢を見た。なんか、骸骨が笑いながら追いかけてくる夢だったんだ……」
次の日、ケンも疲れ切った顔で登校してきた。目は充血していて、まるで眠れていない様子だった。これで僕たちの間では、あのキーホルダーが本当に呪われているという確信が広まった。
それから僕たちは、キーホルダーを処分しようという話になった。捨てるだけじゃ不安だ。そこで、みんなで相談し、校庭にある大きな桜の木の下に埋めることにした。
その桜の木は、学校のシンボル的な存在で、毎年春になると満開の花を咲かせる長寿の木だった。どこか神聖な雰囲気があり、僕たちは「この木なら呪われたキーホルダーを封じ込めてくれる」と考えたのだ。
放課後、僕たちはこっそりスコップを持ち寄り、桜の木の根元を掘り返して、キーホルダーを埋めた。掘る手が震えたけれど、なんとか無事に埋め終えたとき、全員がほっとした。
「これで大丈夫だよな……?」
「うん、あの桜の木ならきっと大丈夫だよ」
僕たちはそう信じて、その日は安心して家に帰った。
しかし、数日後――。
学校に行くと、なんとあの大きな桜の木が倒れていたのだ。
「なんで……あの木が倒れるなんて……」
先生たちは「木が古かったからだろう」と言っていたが、僕たちはそれを信じられなかった。呪われたキーホルダーを埋めた桜の木が、そんなタイミングで倒れるなんて、偶然とは思えなかったのだ。
「やっぱり……あのキーホルダーの呪いだ……」
誰かがそう呟くと、全員が黙り込んだ。あのときキーホルダーを埋めた僕たちは、同じ考えを抱いていた。
その後、作業服を着た大人たちが桜の木を切り分けてトラックで運び去っていった。木のあった場所を覗き込んでみたが、埋めたはずのキーホルダーは跡形もなく消えていた。
「な、ない……」
「どこ行ったんだ……?」
僕たちは不安に駆られながらも、もうそれ以上その場所には近づかなかった。
今思えば、あの桜の木は古くなっていて、いずれ倒れる運命だったのかもしれない。でも、あのときの僕たちはそんなことを考えられなかった。
「やっぱりあのキーホルダーが呪われていたんだ」と、心の底から思っていた。
あのキーホルダーは今どこにあるのだろう。誰かが持ち帰ったのか、それともどこかで新たな呪いを振りまいているのか――。
あの日から僕たちは、二度とあの露店の話をすることはなかった。けれど、今でもたまに思い出す。
もし、あの呪われたキーホルダーを、そのまま持っていたらどうなっていたのだろうと――。
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