友人のタカシと僕は、夏休みのある日、近所で噂されている廃墟を探検することになった。学校ではその廃墟の噂が絶えなかった。
「昔、あそこで何かあったらしいぞ」
「行ったら、二度と帰ってこれないんだって」
そんな噂話が飛び交い、子供たちの間で「肝試し」のスポットとして知られていた場所だ。好奇心旺盛なタカシに誘われた僕は、怖さよりも興味が勝ち、その廃墟を探検することに決めた。
目次
廃墟の入口
廃墟は街の外れ、木々が鬱蒼と茂る森の中にあった。錆びた門の奥に、崩れかけた建物がぽつんと佇んでいる。かつては工場か施設だったようだが、今は壁がひび割れ、窓ガラスも砕けている。
廃墟の周りは異様に静かで、鳥のさえずりも虫の音もまったく聞こえなかった。まるで、この場所だけが時間から取り残されているような不気味な空気に包まれていた。
「行くぞ!」
タカシが勢いよく錆びた門を押し開け、僕たちは廃墟の中へと足を踏み入れた。
廃墟の中
中に入ると、古びたコンクリートの床や、壊れた棚や機械が散乱していた。天井は崩れかけ、壁には謎の落書きやひっかき傷が無数に残っている。
「ここ、何の建物だったんだろうな?」
タカシが楽しそうに言いながら、奥へ奥へと進んでいく。僕はその様子を見て少し不安になった。
(戻るなら、今のうちかもしれない……)
そう思った矢先、タカシが急に足を止め、指を指した。
「おい、あれ見ろよ」
奇妙な扉
廃墟の奥に進むと、なぜかその場所だけ真新しい扉があった。他の場所はボロボロなのに、その扉だけは新品のように綺麗で、妙に浮いて見えた。
「なあ、この扉、開けてみようぜ」
タカシは怖がる様子もなく、扉の前に立ち、取っ手を掴んだ。
「おい、やめとけよ……」
僕は嫌な予感を感じたが、タカシは無視して扉を開けた――。
扉の向こう
扉の向こうに広がっていたのは、まったく別の空間だった。
古い廃墟の奥にあるはずなのに、そこには整然とした白い部屋が広がっていた。白いタイル張りの床に、奇妙な機械がいくつも置かれている。病院の手術室のようにも見えるが、どこか異様で無機質な印象を受けた。
「……ここ、何だ?」
タカシが呟いた瞬間、僕たちの背後で――バタンと扉が閉まった。
僕は慌てて振り返り、取っ手を掴んだが――扉はもう、開かなかった。
追い詰められた二人
「おい、やべえぞ! 閉じ込められた!」
タカシが取っ手を何度も回したが、扉はびくともしない。僕たちは部屋の中に取り残され、パニックに陥りかけた。
そのとき――。
「……コツ……コツ……」
遠くから、足音が近づいてきた。
僕たちは顔を見合わせ、音のする方向を見つめた。部屋の奥にある、もう一つの扉がゆっくりと開き、何かが出てこようとしている。
姿を現したもの
扉の隙間から見えたのは――異様に長い腕を持った、人間とは思えない者だった。
その生き物は、無表情の仮面をつけており、かすかな機械音を発しながらゆっくりとこちらに歩いてくる。
僕とタカシは全身が凍りついたように動けなかった。
奇妙な脱出
「ヤバい、逃げるぞ!」
僕はタカシの腕を引っ張り、部屋の奥へと駆け出した。何も考えずに走り、ただその場所から逃げたかった。
すると、再び別の扉が現れ、僕たちはその扉を思い切り開けた。
次の瞬間――。
そこには、最初に入った廃墟の入口が広がっていた。
「……戻れたのか?」
僕は混乱しながらも、タカシと一緒に廃墟の外に飛び出した。
廃墟の消失
息を切らしながら振り返ると――そこにあったはずの廃墟は、跡形もなく消えていた。
僕とタカシはただ呆然とその場所に立ち尽くした。あの扉の先で見たものは一体何だったのか? あの長い腕を持つ者は――どこへ行ったのか?
今でも、あの日見た廃墟の記憶は、現実のものだったのかどうか分からない。ただ、二度とあの場所へは近づきたくないと心に誓った。
それがどこに消えたのか――考えるのも恐ろしい。
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