目次
廃墟で見つけた人形
アヤは幼馴染のユミに誘われ、地元の郊外にある古い廃墟へと足を運んだ。その廃墟は、豪邸で、もともと裕福な家の邸宅だったが、今は放置され、誰も住んでいない場所として地元で有名だった。そこには、人形コレクションがあったという噂もあり、「怖いもの見たさ」に二人は探検を楽しもうとしていた。
蔦に覆われた玄関から中へ足を踏み入れると、異様な静けさが漂っていた。割れた窓から冷たい風が吹き込み、廊下には湿気と埃の匂いが充満している。二人は足音を響かせながら、奥の部屋を一つずつ開けていった。
そして、一番奥の和室で、それを見つけた――。
日本人形。
棚に並べられた、いくつもの日本人形。その中の一体がアヤの目を釘付けにした。
それは異様にリアルな顔立ちを持った、日本人形の少女だった。黒い髪が美しく、漆黒の瞳はまるで生きているかのように輝いている。アヤはその人形から目を離せず、なぜか惹きつけられるように近づいてしまった。
「……これ、持って帰ろうかな。」
そう言って、アヤはその人形を両手で抱き上げた。ユミは驚いた表情で止めた。
「やめなよ……こういうの、触らない方がいいって聞いたことあるよ。」
だがアヤは聞く耳を持たず、その日本人形を持ち帰ることにした。
夢の中の人形
その夜、アヤは自分の部屋の棚に日本人形を飾り、いつも通りに布団に入って眠りについた。しかし、眠ったはずの彼女は奇妙な夢を見始めた。
――夢の中、彼女はあの廃墟の和室に立っていた。部屋には無数の日本人形が並び、その中央に自分が持ち帰った人形がいる。
人形の瞳が、じっと彼女を見つめている。
アヤはなぜかその人形が「自分の代わりにここから連れ出された」と感じた。そして、人形の中にある怒りのような感情が、自分に直接伝わってくるのを感じた。
――「帰して……ここに……」
人形の瞳が、不自然にゆっくりと動いた。その瞬間、アヤは夢の中で体が動かなくなった。
金縛りだ。
夢の中で、人形の視線がぐんぐん近づいてくる。耳元で囁く声が聞こえた。
「帰して……私の場所……」
アヤは夢の中で必死に逃げようとするが、どこに行ってもあの和室に戻ってきてしまう。夢の中をさまようたびに、人形たちが少しずつこちらを向いてくる。
そして最後には、棚に並ぶすべての日本人形が、一斉に彼女を見つめて笑った。
奇妙な物音
翌朝、アヤは悲鳴を上げて目を覚ました。全身が汗でびっしょりだった。昨夜の夢はあまりにもリアルで、胸が苦しくなるほどの恐怖を感じた。
「……ただの夢だよね……?」
そう自分に言い聞かせるように呟きながら、棚に飾った日本人形を見た。そこに置かれているのは、夢で見た通りの黒髪の少女の人形だ。
だが――どこかおかしい。
昨夜、自分が飾ったはずの人形の向きが変わっているのだ。まるで夜の間に誰かが触れたかのように、微妙に部屋の入り口の方を向いている。
「……そんなわけ、ないよね……」
彼女は震える手で人形の位置を直し、仕事に出かけた。
音がする夜
その夜も、アヤは再びあの和室の夢を見た。人形たちはまた笑い、耳元で「帰して……」と囁いてくる。そして、金縛りの感覚が再び彼女を襲った。
目を覚ますと――深夜2時。真っ暗な部屋の中、どこかでコトリ……と音がした。
「……今の、何?」
アヤは布団の中で息を潜めた。音の正体を確認するために懐中電灯を手に取り、棚を照らしてみる。すると――。
――人形が、棚から少し動いている。
床の上には、微妙に傾いた日本人形が転がっていた。その人形の顔は、さっき見たときよりもどこか楽しそうに微笑んでいるように見えた。
人形との対話
もう限界だと思ったアヤは、翌日すぐにユミに相談し、廃墟へ人形を戻しに行くことを決意した。
「戻さないと……私、もうダメかもしれない……」
二人は急いで人形を持ち、あの廃墟へと向かった。和室に戻ると、アヤは手に持った日本人形を元あった場所にそっと置いた。
すると――。
――スーッ……
まるで人形が安堵したかのように、空気が変わった。部屋全体がふっと軽くなり、長い間何かに押さえつけられていた感覚が消え去った。
「これで……終わったのかな。」
二人はほっと胸を撫で下ろし、急いで廃墟を後にした。
帰宅後の異変
自宅に戻ったアヤは、人形を戻した安堵感からようやく深い眠りにつくことができた。
しかし――その夜、再び夢を見た。
――夢の中、和室に置かれたはずの日本人形が、再び自分の家の棚に座っていた。
人形はゆっくりと彼女に微笑みながら、こう囁いた。
「もう、ここが私の場所……」
目を覚ますと、枕元に――あの日本人形が座っていた。
その日から、アヤの家には誰もいないはずの夜に、時折カタリ……カタリ……という物音が響くようになったという。
そして、彼女が眠るたびに夢の中で、人形はこう言い続ける。
「ここが私の場所……あなたの夢の中で、ずっと一緒……」
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