病室の天井をじっと見上げている。もうこの景色にもすっかり慣れてしまった。僕は老人だ。長い人生を生きてきたが、もう身体はすっかり衰えてしまった。
入院してどれくらい経ったのだろう。体は痩せ細り、立つどころか声を出すことも難しくなってしまった。死期が近いことは、僕自身が一番よく分かっている。
けれど、不思議と怖くはなかった。
家族には恵まれたし、友人も多く、幸せな人生を送れた。愛する人たちに囲まれて、僕は何も悔いなくこの日を迎えようとしている。
目次
夢の中の「もう一人の自分」
最近、僕は奇妙な夢を見るようになった。夢の中で、僕は小さなテーブルに座っている。
そして、向かいにはもう一人の自分がいる。
彼は、僕とまったく同じ顔をした男だ。けれど、その表情には不思議な穏やかさが漂っていた。
「どうだい? 君の人生は」
彼は、そうやって毎晩、僕の人生について尋ねてくる。
僕は笑いながら答える。「うん、良い人生だったよ。友人もいて、家族もできて……幸せだった」
「そうか。それはよかった」
向かいの僕は優しくうなずく。それで終わってもいい話だ。だけど、夢の中の僕は、どうしても心の奥にしまい込んでいた想いを口にせずにはいられなかった。
「……でもさ、本当はもっと未来の世界で生きてみたかったんだ」
彼は黙って僕を見つめる。
「科学がずっと進んで、空を飛ぶ車があったり、人がずっと長生きできるようになったり――そんな未来の世界に住んでみたかったんだ。子供じみた夢だけどね」
そう語ると、向かいの僕は静かに笑った。
「その未来、本当に生きてみたいかい?」
家族との別れ
それからしばらくして、僕の身体はさらに弱っていった。心臓や呼吸を監視する装置が、身体中に取り付けられた。
そして――ある日、僕の病室に家族が集まった。
みんな心配そうな顔をして僕を見つめている。目に涙を浮かべながら、僕の手を握り、何かを話しかけてくれていた。
僕は、何とか言葉を返したかった。「もう悲しい顔をしなくていいよ。僕は十分に幸せだった」と。
けれど、もう喋る力すら残っていなかった。代わりに――最後の力を振り絞って、微笑むことにした。
それを見た家族たちは、少しだけ表情を和らげてくれた気がした。
「ありがとう……」そう心の中でつぶやきながら、僕は再び目を閉じた。
夢の中の扉
まぶたを閉じると、僕はまたあの夢の世界にいた。
目の前には、いつもの小さなテーブルがあり、そこに向かい合って自分が座っている。
「どうする? あの未来の世界で生きてみるか?」
彼の声は穏やかで、どこか暖かかった。僕は静かにうなずいた。
「……できるものなら、生きてみたい」
すると、彼は微笑んで言った。
「じゃあ――この扉を開けなさい」
扉の前に立つ
気づくと、僕の目の前には一枚の扉が現れていた。
その扉は、見たこともない形をしていた。木製のようにも見えるが、表面には金属のような滑らかさがあり、淡い青い光が揺らめいている。
まるで、未来そのものが凝縮されたような扉だった。
「この先には――未来が待っているんだな?」
向かいの僕は、ただ優しく笑うだけだった。
僕は静かに、扉の取っ手を握った。冷たくもなく、温かくもない、不思議な感触が手に伝わってくる。
そして、ゆっくりと扉を開いた――。
扉の向こう
扉の向こうに広がっていたのは、まったく新しい世界だった。
青い空には無数の飛行機械が飛び交い、街の中を人々が宙に浮いたような移動手段で行き交っている。ビルのような建物は、宙に浮かんでいたり、光の筋が走っていたりする。
街の中では、人間だけでなく、人工知能のような存在も混じり合いながら暮らしている。
「ここが、僕の望んだ未来……」
僕は一歩、その世界に踏み出した。
身体は軽く、まるで若返ったような感覚があった。
そして、その瞬間――僕の冒険が、新たに始まった。
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