目次
リゾートバイトの始まり
大学生のユウタは、夏休みを利用して海辺のリゾートホテルでバイトを始めた。ホテルは白砂のビーチに面しており、青い海と美しい夕日が毎日見られる絶好のロケーションだ。スタッフも親切で、ユウタはすぐに仕事に慣れていった。
ホテルにはチャッピーという名の飼い犬がいて、スタッフや宿泊客に可愛がられていた。チャッピーは毛並みの良い柴犬で、夕方になるとスタッフが順番に散歩に連れて行くのが日課だった。
「ユウタ君、今日の散歩、よかったらお願いできる?」
「はい!チャッピーと一緒に歩いてみたかったんです」
夕暮れ時の空を背景にチャッピーを連れてビーチ沿いの道を歩くと、波の音と涼しい海風が心地よかった。チャッピーもリードを引っ張りながら、はしゃいだ様子で足取りが軽い。
夕暮れの不気味な異変
しばらく海岸沿いを歩いていると、チャッピーが突然足を止め、海の方をじっと見つめ始めた。体を硬直させ、毛を逆立てているようにも見える。
「どうした、チャッピー?」
ユウタが海の方に目をやると、遠くの波間に人影が見えた。浅瀬を歩いているかのように、ゆっくりとこちらに向かっている。しかし、距離があって顔は見えず、全身がぼんやりとした影に見える。
「こんな時間に海にいるなんて……」
ユウタは少し不安を感じながらも、その人影から視線を外し、散歩を続けようとした。だが、チャッピーは動かず、うなり声を上げている。再び海の方を見やると、先ほどの人影はすぐ近くの波打ち際まで迫っていた。
「あれ、さっきはあんなに遠くにいたのに……」
まるで瞬きをした瞬間に距離が縮まったかのようだった。驚いたユウタは、急いでチャッピーのリードを引き、ホテルに戻ろうとした。
追いかけてくる影
海辺の道を引き返して歩き出すと、背後からザッ、ザッと砂を踏みしめる音が聞こえてきた。振り返る勇気が出ず、ユウタは足早に歩き始めたが、その音はどんどん近づいてくる。
チャッピーは再び動かなくなり、リードを引っ張ると、怖がるようにユウタの後ろに隠れて震えていた。その時、背後から何かが彼の耳元に近づき、ひそひそと囁く声が聞こえた。
「……ここに……何しに来たの?」
その声は冷たく、どこか湿ったような響きがあった。振り返りたい衝動に駆られたが、恐怖で体が動かない。ユウタは震える声でチャッピーを呼びかけ、なんとか足を動かして再び歩き始めた。
海岸から離れるにつれてその声も音も遠ざかり、やがて静寂が戻ってきた。安心したユウタは一気に駆け出し、ホテルに戻ると同時に扉を閉めた。
先輩スタッフの話
ホテルに戻ったユウタがふと顔を上げると、先輩スタッフのアヤカが心配そうに見ていた。
「どうしたの?顔が真っ青だよ」
「実は……散歩中に変なことがあって」
ユウタは先ほどの出来事をアヤカに話した。すると、アヤカの表情が一変し、眉をひそめた。
「それ、もしかしてこの辺りに昔からいるっていう“海の影”かもしれないね」
アヤカは語り始めた。昔、この海である事故が起き、誰かが行方不明になったという噂があったらしい。それ以来、夕暮れ時になると海辺に人影が現れ、見つけた人間に囁きかけると言われていた。その声に反応して振り向くと、二度と戻れなくなる、と。
「振り向かなくてよかったね……ユウタ君」
アヤカは重々しい口調でそう言い、ユウタはゾッとした。チャッピーもベッドの上で小さく震えている。
二度としない散歩
それ以来、ユウタはチャッピーの散歩を申し出ることはなくなった。あの日見た影が本当に幽霊だったのか、それとも自分の思い違いだったのか――その答えを知る勇気はもうなかった。
ただ、夕暮れ時にホテルから見える海を眺めると、遠くの波間にぼんやりとした人影が、こちらをじっと見つめているような気がしてならなかった。
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