僕は大学の夏休みにリゾートバイトをすることにした。海辺にあるホテルでの仕事で、海の見える絶景や波の音を聞きながら過ごせると聞いて楽しみにしていた。
到着したホテルは少し古びていたが、スタッフの皆さんは親切で、アットホームな雰囲気だった。館内にはホテルのマスコット的存在の犬がいて、名前はハル。愛嬌のある小型犬で、僕はすぐにその可愛さに惹かれた。
「よかったら夕方の散歩、頼むわね」
ある日、スタッフから声をかけられ、僕は喜んでハルのリードを握り、海沿いの道を歩き始めた。辺りはまだ明るかったが、日が傾き始めていて、海が夕焼けに染まり、柔らかなオレンジ色の光が水面に揺らめいていた。
目次
夕暮れの異変
ハルは普段から散歩に慣れているらしく、軽快に足を進めていた。僕も楽しげに周囲を見渡していたが、ふと、ハルがピタリと動きを止めた。鼻をひくひくさせ、耳をぴんと立てている。
「どうしたんだ、ハル?」
僕が声をかけても、ハルはじっと一点を見つめたまま動かない。視線の先には、少し離れた浜辺にぽつんと人影が立っている。こんな時間に一人で佇んでいるなんて不思議だなと思いながらも、その人影は微動だにしない。
気味が悪くなり、僕はハルのリードを引いて「行こう」と声をかけた。ハルも渋々従って歩き出したが、その後も頻繁に振り返り、さっきの人影を気にしているようだった。
次々と現れる人影
少し先の小道に差し掛かると、今度は別の人影が道の向こうに見えた。海辺に立っている先ほどの人影とは違い、こちらはゆっくりとこちらに歩み寄ってくるようだった。
その影はうつむき加減で、顔はよく見えなかったが、細くて長い手足が暗い影の中で浮かび上がるように見えた。異様な静けさと薄暗がりの中で、その人影は静かに近づいてきていた。
「……行こう、ハル」
僕は怖くなり、ハルを抱き上げて小走りで別の道に入った。けれど、ふと後ろを振り返ると、また同じように静かに立つ人影が見えた。まるで僕たちを追いかけてくるかのように、影は一定の距離を保ちながら現れては消えた。
犬の警告
しばらくすると、ハルが再び吠え始め、今度はリードを引っ張って、強引にある方向へと誘導してきた。普段は大人しいハルがこんなにも必死に吠え続けているのを見て、僕も何かおかしいと感じ、ハルの導くままに走り出した。
足音が重なり、どこかからうめき声のような音が聞こえてくる。振り返る勇気も出ないまま走り続け、ようやくホテルが見えてきた頃、辺りはすっかり暗くなっていた。
帰還と不気味な真相
ホテルに戻ると、スタッフが不思議そうに僕たちを見つめていた。
「おかえり、そんなに急いでどうしたの?」
僕は途中で見た人影の話をしたが、スタッフは困ったような顔をして首を振った。
「ここは、昔海で亡くなった人たちの霊が出るって噂があるんだよ。特に夕方になると浜辺に立つってね。ハルは、そういうものに敏感なのかもしれないね」
その言葉に背筋が凍った。ホテルに入った後も、ハルは何度も振り返り、外を気にしている。彼が怯えるその目を見て、僕はこのリゾートバイトの間は、もう夕方の散歩には行かないと心に誓った。
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