出張先で、古びたホテルに泊まることになった。予約を入れた時には写真では綺麗に見えたのだが、実際に到着してみると、ホテルの外観は少し薄暗く、廊下には古いカーペットが敷き詰められている。部屋のドアもどこか古めかしく、木製の扉にはかすかな傷が見える。
チェックインを済ませて部屋に入ると、中も少し時代がかった装飾がされていた。特に気になったのが、ベッドの正面に設置されている大きな鏡だ。アンティーク調のフレームに囲まれた鏡がベッドに向かって立てかけられており、なんだか落ち着かない。
目次
夜中のノック音
部屋の中で少し仕事を片付け、ようやくベッドに入ったのは夜中だった。電気を消してベッドに横になり、眠りに落ちようとした時、廊下の向こうからコツ……コツ……と一定の間隔でノックの音が聞こえてきた。
(こんな時間に……)
ホテルの他の宿泊客が部屋を間違えたのだろうかと思いながらも、僕は気にせず目を閉じた。しかし、そのノックの音はだんだんと近づいてくるように感じられた。やがて、自分の部屋の前でコツ、コツ……とノックが鳴り響く。
少し怖くなり、ベッドから起き上がってドアに近づいたが、覗き穴からは誰も見えなかった。だが、ノックの音はまだ続いている。部屋の外に誰かが立っている気配もない。
鈴の音と鏡の中の影
ドアのノック音がやむと同時に、今度はかすかなチリン……チリン……という鈴の音が聞こえてきた。音の出所を探そうと部屋の中を見渡したが、どこにも鈴などは見当たらない。音は微かで、部屋の中に響くように聞こえてくる。
そして、ふと鏡を見た瞬間、僕は息を呑んだ。鏡に映る自分の後ろに、微かに影が映っているように見えた。反射的に振り返ったが、そこには誰もいない。しかし、鏡を見ると、そこにはうっすらとした人影が立っている。
「……なんだこれは……」
鈴の音が鏡の中から響くように感じられ、影は鏡の向こう側でこちらをじっと見ているように動かない。その視線が僕を通り越し、部屋全体を見回しているように思えた。
もう一度のノックと鏡の異変
恐怖に凍りついたまま鏡を見つめていると、再び部屋のドアがコツ、コツとノックされた。今度は明らかに自分の部屋のドアだ。恐る恐るドアを開けようとしたが、体が動かない。
振り返ると、鏡の中の影が、今度は僕のすぐ後ろにいるように見えた。そして、鏡に映る自分の肩越しに、誰かの顔が覗き込んでいる。どこからか鈴の音がさらに強く響き渡り、その顔は僕を見つめたまま、不気味な微笑みを浮かべた。
全身が震え、無我夢中で部屋を飛び出し、廊下を走り抜けた。ようやくフロントにたどり着き、ホテルのスタッフに事情を話すと、スタッフは小さくため息をつきながら言った。
「このホテルの部屋には、鈴なんてありませんよ」
終わらない鈴の音
結局、僕はその夜ホテルに戻らず、別の宿泊先を探した。だが、家に帰ってからも夜になると、あのチリン……チリン……という鈴の音が耳の奥で聞こえるような気がしてならない。
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