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ホテルの鈴の音 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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怪しい部屋

ナオコは、仕事の出張である地方のホテルに泊まることになった。そのホテルは古いけれど重厚感があり、歴史を感じさせる装飾が施されていた。フロントでチェックインを済ませ、鍵を受け取ると、部屋は廊下の一番奥にある507号室だった。

部屋に入ると、独特の古い木の匂いが漂っている。荷物を置き、部屋を見渡すと、大きな姿見が壁に掛かっていた。古めかしい装飾が施されたその鏡は、誰かが長い間使ってきたのだろう。薄暗い照明に反射し、鏡の表面にかすかな影が映っているような気がしたが、ナオコは気のせいだと思い、ベッドに腰掛けた。

その夜は疲れていたため、すぐに眠ることにした。

夜中の鈴の音

真夜中、突然チリン……チリン……という鈴の音が遠くから聞こえてきた。その音は微かだが、だんだんとナオコの耳に届くほどにはっきりと鳴り始めた。目が覚めたナオコは寝ぼけ眼で時計を見ると、深夜2時を過ぎていた。

「鈴の音……? このホテルって、鈴をつけているペットでもいるのかな……」

そんなことを考えながらも、鈴の音がだんだん近づいてくるのが感じられた。どこからかはわからないが、部屋の外の廊下のようだった。チリン、チリンと規則的に鳴り、音が近づいてくるにつれて、ナオコの背筋が冷たくなった。

その時、コツン、コツンと鈍いノック音が部屋のドアから聞こえてきた。

不気味なノック

ナオコは一瞬緊張し、身動きが取れなくなった。深夜の2時にノックされるようなことは滅多にない。何かが妙だと感じつつも、意を決してドアのスコープを覗いてみることにした。しかし、外には誰もいない。

だが、耳を澄ますと、廊下のどこかで再び鈴の音が鳴っている。ナオコはしばらく耳を澄ませていたが、音が遠ざかっていく気配がすると、心の底からホッとした。部屋に戻り、再びベッドに横になった。

すると、再び鈴の音が近づいてくる。それと同時に、またもやコツン、コツンとノック音が響く。心臓の鼓動が激しくなり、恐怖で息が詰まりそうだった。

鏡の中の影

恐る恐る部屋の中を見回すと、ふと壁の鏡に視線が止まった。薄暗い照明の中、鏡に映る自分の姿が、なぜか少し異様に見えた。身震いしながらも鏡に近づくと――

鏡の中の自分が、薄く笑っていることに気づいた。ナオコは驚いて後ずさり、声にならない悲鳴を上げた。その笑みは、まるで別人のように冷たく、何かを含んだ視線でこちらを見つめている。

突然、再び鈴の音が今度は耳元で鳴り響き、慌てて周りを見渡したが、部屋には自分一人しかいないはずだった。

帰らぬ部屋

そしてまた、部屋のドアがコツン、コツンとノックされ、再び鈴の音が響いた。鈴の音はナオコの背後から迫るように鳴り響き、ついにはドアがすーっと開いた。ナオコは耐えられず、開いたドアから部屋を飛び出し、廊下を走り抜けた。

次の日、ナオコはホテルのフロントで全てを話そうとしたが、フロントのスタッフは困惑しながらこう言った。

「507号室……ですか? その部屋、実は3年前に閉鎖されていて、どなたも泊まっているはずはないんです」

ナオコはただ茫然と立ち尽くし、背筋に寒気を感じながらホテルを後にした。

それ以来、深夜の507号室では今も鈴の音が鳴り響き、誰かがノックをし続けているという。



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