私の家は高台の住宅街にあり、毎朝家を出て駅に向かう途中で、遠くの山々が連なる美しい景色を眺めるのが日課でした。特に空気が澄んでいる日は、見事な景色に惹かれて写真を撮ることが習慣になっていました。けれど、最近、不思議な体験をするようになったのです。
目次
見慣れない山
ある晴れた朝、いつも通りに家を出て、遠くの山々を見渡しました。その時、私は「何か違う」と感じました。よくよく目を凝らしてみると、山並みがいつもと異なっているのです。明らかに見慣れない山がひとつ増えているようでした。低く穏やかなラインを描くいつもの山々の中に、どっしりとした新しい山が加わっていたのです。
「こんな山あったかな……?」
私は不思議に思いながらも、携帯を取り出し、その不思議な光景を写真に収めました。もしかしたら、景色が違って見えただけかもしれない、そう思いながら駅に向かいました。
駅に着くと、撮ったばかりの写真を過去の写真と比べてみましたが、驚いたことにどの写真にも山並みは変わりなく映っていました。新しい山なんて最初からなかったかのように写っているのです。
「記憶違いだったのかな……」
少し気味が悪くなりながらも、自分の勘違いで片付けることにしました。
山々が消える
数日後、また別の晴れた朝、いつも通りに景色を見渡すと、今度はさらに奇妙なことが起こりました。遠くに連なるはずの山々が一つも見えなくなっていたのです。青空の下、遠景にはただ平らな地平線が続いているだけで、山影はどこにもありません。
「これは……おかしい。さすがに、記憶違いなんかじゃない」
心がざわつき、鳥肌が立つのを感じながらも、急いで写真を撮りました。駅に着くと、その場で携帯の画面を開き、数日前に撮った写真を確認しました。しかし、今撮った写真と同じく、過去の写真にも山々は映っていないのです。山が存在しない景色だけがずっとそこにありました。
まるで今までの山並みが、自分だけの錯覚だったかのように、どこにも存在していないのです。
景色は幻か、記憶か
次の日も、そのまた次の日も、山並みは現れることもなく、毎日同じ平坦な景色が広がっていました。山があった記憶だけが私の中に鮮明に残っていて、毎朝の景色がまるで別の世界に来たように見えたのです。
ふとした瞬間に私はある疑問が頭をよぎりました。
「……私が見てきた景色は、本当に現実のものだったのだろうか?」
もしかすると、ずっと自分だけが不思議な幻の景色を見ていたのかもしれないという考えが浮かび上がり、少しずつ恐ろしさが湧き上がってきました。
変わり続ける風景
その後も不思議な現象は続きました。ある日は山々が再び姿を現し、次の日にはさらに高い山が増え、また別の日には山並みが全て消える。その度に写真を撮っても、そこには過去の写真含めて、現在の状態の景色が写っているだけです。私の見ている景色が変わるたびに、写真も現状にあわせて変わるのです。
この奇妙な体験が続いたせいで、私の記憶はあやふやになっていきました。今となっては、どれが本当の景色で、どれが見間違いだったのかさえ、はっきりわからなくなってしまったのです。
景色の謎
今朝もいつものように高台から遠くを眺めましたが、何もかも変わらない平坦な景色が広がっているだけでした。そして、自分の目で見ているこの風景と、写真の中にある平坦な景色がぴたりと一致していることに気づきました。
「もしかして……山なんて、最初から存在しなかったのかもしれない」
そう思った瞬間、自分の中で何かがすっと消えていくような感覚を覚えました。それからというもの、毎朝見上げる風景に山が現れることは二度となく、写真にも、私の目にも、ただ静かな平坦な地平線が続くだけでした。
■おすすめ
マンガ無料立ち読み
1冊115円のDMMコミックレンタル!
人気の漫画が32000冊以上読み放題【スキマ】
人気コミック絶賛発売中!【DMMブックス】
ロリポップ!
ムームーサーバー
新作続々追加!オーディオブック聴くなら - audiobook.jp
新品価格 |
ページをめくってゾッとする 1分で読める怖い話 [ 池田書店編集部 ] 価格:1078円 |