リゾートバイトのために、僕は海辺のペンションに住み込みで働くことになった。海のそばに立つそのペンションは、どこか懐かしい雰囲気が漂っていて、宿泊客もほとんどが家族連れや年配の人たちで、穏やかで落ち着いた場所だった。仕事の合間には海辺を散歩するのが日課になり、僕にとっても穏やかなバイト生活が続いていた。
ある日の夕方、宿泊客の年配の女性が、ロビーで僕に話しかけてきた。
「あなた、こんな音を聞いたことはあるかしら?」
そう言って、バッグの中から小さな鈴を取り出し、チリンと一度鳴らして見せてくれた。その音は柔らかく、どこか懐かしい響きがして、僕は思わず耳を傾けた。女性は笑いながら「私の若い頃の思い出と一緒にある鈴なのよ」と言って、再びチリン…チリンと軽やかに鳴らしてくれた。
目次
チリンと響く夜の鈴
その夜、ペンションのロビーで一人で片付けをしていると、不意に遠くからチリン…チリンと鈴の音が聞こえてきた。昼間に聞いた鈴の音にそっくりで、まるであの女性が再び鳴らしているかのようだった。
(……おかしいな、あの女性の部屋は反対側のはずなのに)
不思議に思いながらも仕事に戻ったが、またチリン…チリンと耳元で鈴の音が鳴った気がして、思わずロビーを見回した。しかし、誰もいない。ペンション内はしんと静まり返っていて、ただ鈴の音だけが不気味に響いている。
謎の鈴の正体
翌朝、女性に「昨夜、鈴を鳴らしていたんですか?」と尋ねてみたが、彼女は首を横に振った。「鈴は夜には鳴らさないわ。静かにしまっておいたのよ」と言う。僕は少し気味悪く思いながらも、それ以上は追及せずに仕事に戻った。
その夜、ロビーの片付けをしていると、またチリン…チリンと鈴の音が鳴り響いた。今度は近く、まるで僕の周りを回っているかのような距離感だ。音のする方に目を凝らしてみると、ロビーの端の方に小さな人影が見えた。背が低く、幼い子供のようだった。
僕がそちらに近づこうとすると、人影はふっと消え、鈴の音もやんでしまった。
ほっこりとした怖さの残像
翌朝、宿泊していた年配の女性が出発することになり、僕に別れの挨拶をしにきた。僕は昨夜のことが気になり、最後に勇気を出して尋ねてみた。
「実は、毎晩鈴の音が聞こえるんです……」
彼女は少し驚いた様子で「そうなの。昔、ここには私の孫が遊びに来ていたの。小さな鈴を持ってね。でも、その子は病気で亡くなってしまって……この鈴も、その子のものなのよ」と静かに話してくれた。
女性が去った後、夜になるとまたチリン…チリンと、遠くから鈴の音が聞こえてきた。薄暗いロビーで、僕は少しだけ、亡くなった彼女の孫が遊びに来ているのかもしれないと思い、どこか懐かしいような、不思議な気持ちでその音を聞いていた。
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