私には12歳年の離れた妹がいる。私は大学生、彼女はまだ小学校低学年だ。歳が離れているせいか、妹は私を「お兄ちゃん」ではなく「お父さん」に近い存在として見ている節がある。両親が忙しいこともあり、僕が彼女の面倒を見たり、一緒に遊んだりすることが多かった。
そんなある日、妹が家族には話したことがない、奇妙な話をしてきた。
「お兄ちゃん、前にも会ったことあるよね?」
あどけない顔でそう言う妹に、僕は首をかしげた。「いや、初めて会ったのは君が生まれた時だよ。それまではもちろん会ったことないよ」
でも妹は首を横に振り、「違うの、ずっと前のことだもん」と真剣な顔で続ける。「お兄ちゃんと、山のあるところで遊んだことがあるよ。お兄ちゃんは、赤いシャツ着てたの」
赤いシャツ――確かに、僕が小学生だった頃にお気に入りだった服だ。そんな記憶を、年の離れた小さな妹が知っているはずがない。少し背筋に寒気を感じながらも、僕はその時の話を聞くことにした。
目次
妹の不思議な記憶
「お兄ちゃん、川に連れて行ってくれたよね。私が転んじゃった時に、お兄ちゃんが助けてくれたの覚えてる」
妹はさらに細かいことを語り始めた。彼女が話すのは、僕が小学生の頃の思い出そのものだった。当時、近所の山に遊びに行き、川辺で転んでけがをした同い年くらいの子を助けたことがあった。その子とは少し遊んだだけで、その後会うこともなくなってしまったが、今でも妙に鮮明に覚えている記憶だった。
「お兄ちゃん、私が痛がって泣いてたら、ずっとそばにいてくれたよね」
妹の話を聞きながら、僕はあの時に助けた子が、今こうして「妹」として生まれてきたのではないかと思うようになった。あの時、たった一度だけ会っただけなのに、その子がこうして僕の前に現れているような不思議な気持ちが胸に広がった。
妹のささやき
その後も妹は時折、「前にも会った」と言って、僕が知らないはずの昔の記憶を話してくれた。彼女の話は日々続き、ある日、彼女が僕にこう言った。
「お兄ちゃん、ずっと見守ってるからね」
その時の妹の表情は、大人びたような、どこか達観したような表情で、言葉にするのが難しいけれど、僕はただうなずいた。それ以来、妹が何も話さなくなったのは、彼女がその役目を終えたからなのかもしれない。
奇妙なつながり
あれから数年経った今でも、あの時妹が話してくれたことを時々思い出す。そして、妹は今も私の人生のそばにいるが、あの時のような奇妙な会話をすることはない。ただ、時々ふと、あの「一度会っただけの子」として見守られているような、温かい気配を感じることがある。
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