診察室は静かな空気に包まれ、今日の患者はどこか穏やかな表情を浮かべていた。定期的な質問が終わると、彼はふと思い出したかのように話し始めた。
「先生、最近ちょっと不思議な夢を見るんです。普段とは違うんですけど……なんだか温かい感じの夢で。」
私はその夢が彼にとって特別な意味を持つのかもしれないと感じ、優しく促した。
「どんな夢だったんですか?ぜひ教えてください。」
彼は少し考え込みながら、夢の内容を語り始めた。
「夢の中で、なぜか小さな妹と遊んでいるんです。実際には妹なんていないんですけど、夢の中ではなぜか自然に『妹がいる』ってことになっていて……自分でも違和感なく一緒に遊んでるんですよね。」
彼はその時の感覚を思い出し、少し照れたように笑った。
「その妹さんとは、どんなふうに遊んでいたんですか?」
「一緒にかくれんぼをしたり、絵本を読んだりしていました。妹は小さいけど、元気で、ニコニコ笑いながら『お兄ちゃん、こっちだよ!』って呼ぶんです。自分も夢の中で完全にお兄ちゃんになりきっていて、必死で妹を追いかけて遊んでるんです。」
彼の声には、夢の中で感じた温かさと楽しさがにじみ出ていた。私はその感覚に興味を持ち、さらに質問を続けた。
「その妹さんと過ごす時、どんな気持ちが湧いてきましたか?」
「とにかく楽しくて、幸せな気持ちでしたね。夢の中では妹がいることが当たり前みたいに感じられて、不思議と『どうしていない妹がいるんだろう?』とか全く疑問に思わなかったんです。むしろ一緒にいるのが自然すぎて……」
彼はその夢の中での安心感を思い出し、穏やかな表情になった。
「その夢の中での妹さんは、どんな子でしたか?具体的な印象や、何か特徴がありましたか?」
「背は小さくて、髪が肩くらいの長さで……すごく純粋で明るい子なんです。いつもニコニコ笑ってて、楽しそうに僕に話しかけてくるんです。その姿がなんだか可愛くて……夢の中では妹を大事にしたい、守りたいって気持ちが強くて。」
彼はその時の気持ちを振り返り、少し恥ずかしそうに言葉を選んでいた。
「その夢から覚めた時、どんな気持ちが残っていましたか?」
「ちょっと寂しい気持ちと、温かい気持ちが同時に残りました。現実には妹がいないって分かってるんですけど、夢の中では当たり前のように一緒にいて……起きた後も、その時の楽しさがずっと残っていたんです。なんだか変な話ですけど、実際に妹がいるような気持ちが少しだけしました。」
彼の話から、夢が彼にとってどれほどの癒しとなっているかが伝わってきた。私は、その夢が彼の心の中にある思いを表しているのではないかと感じ、慎重に問いかけた。
「もしかすると、あなたの中に、誰かと大切に支え合いたい、守りたいという気持ちがあるのかもしれませんね。最近、身近な人ともっと関わりたいとか、守りたいという気持ちが強まっていたりしませんか?」
彼は少し考え込み、静かに頷いた。
「そうかもしれません……最近、家族のことをよく考えるようになっていて、自分も誰かを支えたり、大切にしたいって思いが強くなっていたかも。その気持ちが夢に出てきて、妹という形で現れていたんでしょうかね……」
彼は、自分の中の感情が夢に表れていたことを少しずつ理解し始めたようだった。
診察室を出る彼の背中を見送りながら、私はその夢が彼にとって大切な思いを気づかせるものだったと感じた。夢の中で遊ぶ妹――それは、彼が心の奥底で感じていた大切にしたい気持ちや、温かい絆の象徴だったのかもしれない。彼がその思いを日常で実現し、心から支え合える存在に出会える日が来ることを願っていた。
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