私には10歳以上年の離れた小学生の妹がいる。私は大学生で、両親が仕事で忙しいこともあり、妹の面倒を見ることがよくあった。妹は幼いながらもしっかりしていて、親や先生の言いつけをよく守る子だった。
そんな妹が、ある日、学校から少し不気味なぬいぐるみを持ち帰ってきた。古びたうさぎの形をしたぬいぐるみで、どことなく色褪せた赤いリボンが首元に巻かれている。妹に「それ、どこで手に入れたの?」と尋ねると、返ってきた答えは奇妙なものだった。
「帰り道で知らない人に『あげる』って無理やり渡されたの」
妹は「知らない人からものをもらわないように」と両親から厳しく言われていたので、最初は断ったそうだが、無理やり渡されてしまったのだという。帰り道で、たまたま人通りが少ない場所だったこともあり、不気味に思いながらも、そのまま持ち帰ったらしい。
目次
夜中に聞こえる声
その夜、家族が寝静まってから、私は妹の部屋からかすかな話し声が聞こえるのに気づいた。耳を澄ませると、どうやら妹が誰かと話しているようだ。
「……うん、わかった……うん、明日ね」
小さな声で話し続ける妹が心配になり、ドアをそっと開けてみた。すると、妹がぬいぐるみを膝に抱え、まるでそのぬいぐるみと会話をしているかのように見えた。
「何してるの?」と声をかけると、妹はびっくりして目を見開き、少し戸惑いながら答えた。
「ぬいぐるみがね、色んなことを教えてくれるの」
どう見ても古びていて、何も語りかけてこないはずのぬいぐるみに話しかける妹の姿が不気味で、すぐに「寝なさい」と言って部屋を出た。その後、両親も夜中に話し声がするたびに注意をしていたが、妹は一向にやめようとせず、ぬいぐるみと毎夜会話を続けていた。
川へ誘うぬいぐるみ
ある日、両親が夜に出かけ、家には私と妹だけが残っていた。夕食の後、妹が「ぬいぐるみと川に行く」と突然言い出した。
「なんでこんな夜中に川なんか行くんだよ?危ないからダメに決まってるだろ」
しかし妹は、「ぬいぐるみが『川に一緒に行こう』って言うの」と、いつになく強い口調で訴えた。いつも大人しく私に従う妹が、こんなふうに聞かないのは初めてだった。
不安になった私は、妹をなだめながら外へ連れ出し、川に近づかないようにしようとした。しかし、川の近くに到着するなり、妹は急にぬいぐるみを抱きしめながら川の方へ歩き出した。
「ダメだよ!行っちゃダメ!」と叫んで手を引っ張ったが、妹はまるで別人のような冷たい目で私を振り払い、川に向かって歩みを続けた。
ぬいぐるみの正体
川の水はかなり流れが速く、もし妹が入ってしまったら、小柄な彼女は一瞬で流されてしまう。必死で止めようとするが、妹の目はまるで意識が遠のいているようにぼんやりとし、ひたすら川に向かおうとするばかり。
そして「ぬいぐるみが、一緒に入ろうって言ってるの」と、小さな声でつぶやいた。
このままでは妹が流されてしまうかもしれない――そう感じた瞬間、私は思わず妹の手からぬいぐるみをひったくり、そのまま思い切り川に向かって投げ捨てた。
古びたうさぎのぬいぐるみは、勢いよく流れの中に吸い込まれていき、暗い水の中で次第に見えなくなった。その瞬間、妹ははっとしたように正気を取り戻し、急に泣き出した。
「どうして、どうしてぬいぐるみを捨てたの……?」
私は妹を抱きしめ、「ごめん、でもあれは危なかったんだよ」としか言えなかった。泣きじゃくる妹を抱え、足早に家へと戻った。
不思議な静けさ
それから数日、妹はすっかり落ち着きを取り戻し、夜中に話し声を立てることもなくなった。何事もなかったかのように、普通の生活が戻ってきた。
けれど、時折思い出す。あの古びたぬいぐるみは、いったいどこから来たのか。そして、なぜ妹にあのような行動を取らせたのか――。
あの夜の出来事を思い返すたびに、どうしてもあのぬいぐるみが持つ不気味さと異質な存在感が、心に影を落とし続ける。
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