目次
奇妙なぬいぐるみ
私には年の離れた弟がいる。私は大学生、弟はまだ小学生の低学年で、素直で無邪気な性格だ。そんな弟がある日、学校帰りに見たこともないぬいぐるみを抱えて帰ってきた。
「どこでそれをもらったの?」と尋ねると、弟は言いづらそうに答えた。
「帰り道で知らないおじさんが『あげる』って言って、無理やり渡されたんだ」
弟は「知らない人からものをもらってはいけない」としつけられていたので、最初はきっぱりと断ったという。しかし、そのおじさんはどうしても弟に渡したかったのか、無理に手に押しつけてきたそうだ。弟は仕方なく家まで持って帰ったのだという。
そのぬいぐるみは、どこか古びたうさぎの形をしていて、くすんだ灰色をしていた。見た目は普通だったが、どうにも気味が悪く、私は少し距離を置いたまま見つめていた。
ぬいぐるみと話す夜
そのぬいぐるみを持ち帰ってきてからというもの、弟の様子が少しずつおかしくなっていった。夜遅く、家族が寝静まった時間になると、弟の部屋から話し声が聞こえてくるようになったのだ。
最初は、弟が誰かに話しかけているのかと思ったが、明らかに一人ではなく会話をしているようだった。そして弟の話す内容からして、まるでぬいぐるみが話しかけているかのように思えた。
「うん、そうなんだ……でも、ママがダメって言うよ?」
「え? そうなの? うーん……」
そんな調子で、弟はぬいぐるみと夜な夜な会話を続けていた。私たちにはぬいぐるみの声は一切聞こえなかったが、弟には聞こえているらしく、夜中になると弟は起き出して、ぬいぐるみに話しかけるようになっていた。
家族も気味悪く感じ、母や父が夜中の会話を止めて弟を寝かしつけるようにしていたが、弟は「ぬいぐるみとお話してるだけだよ」と言って、まったくやめる気配がなかった。
川へ誘うぬいぐるみ
そんな奇妙な夜が続いたある日、両親が外出することになり、家には私と弟だけが残されていた。少し安心していた矢先、弟が急にぬいぐるみを抱えたまま外に出ようとしたのだ。
「どこに行くの?」と問いかけると、弟はこう答えた。
「ぬいぐるみが、近くの川へ行こうって言ってるんだ。『一緒に行こう』って」
普段は素直な弟が、この時ばかりは私の止めるのをまったく聞かず、まるで誰かに操られているかのように言い張るのだった。困惑しながらも、私は弟を追いかけ、とうとう一緒に川へ行くことにした。
川での異様な行動
川に着くと、弟は真剣な顔でぬいぐるみを抱きしめながら、川の方へと歩みを進めた。川はそこそこ流れが強く、小さな弟が足を踏み入れればすぐに流されてしまうだろう。それでも弟は川に入ろうとし続けた。
「絶対にダメ! 危ないから、やめて!」
何度も弟を止めたが、弟は私の腕を振り払い、まっすぐ川へと向かっていく。いつもの弟では考えられないほど強い意志で、足を川に近づけていた。
「ぬいぐるみがね、川に行くと楽しいって教えてくれたんだよ。だから一緒に行くの」
そう言う弟の目には、まるで何かに取り憑かれたような光が宿っていた。ぞっとした私は、とっさに弟の抱えていたぬいぐるみを掴み、思い切り川へ向かって投げ捨てた。
ぬいぐるみを捨てた後
水音を立てて、ぬいぐるみは川に沈んでいった。弟は泣き出してぬいぐるみを取り戻そうとしたが、私は弟を抱きしめ、必死で家へ連れ帰った。道中、弟は何度も振り返って「ぬいぐるみが呼んでる」と呟いたが、私はそれを無視し、家に急いだ。
家に戻ると、弟はしばらく泣いていたが、やがて少しずつ落ち着きを取り戻し、その日以来、ぬいぐるみのことも川のことも話さなくなった。そして夜中に話すこともなくなり、弟は元の無邪気な弟に戻った。
忘れられない記憶
それから数年が経ち、弟もすっかり大きくなり、あの時の出来事もすっかり忘れているようだ。しかし、私は今でも、あのぬいぐるみのことを思い出すと背筋が寒くなるのを感じる。あれは一体なんだったのか。誰が、何のために弟にあのぬいぐるみを渡したのか。
ただ、川へと流れていったぬいぐるみが、今もどこかで弟を待っているような気がしてならなかった。
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