いつもの喫茶店で、私とリョウはアキラの話を心待ちにしていた。アキラの語る話はいつもどこか現実離れしていながらも、不思議と心に残るものが多い。今日の話は、少し異質な内容だった。
アキラは、コーヒーを一口飲んでから静かに語り始めた。
「今回の話は怖い話じゃないんだが、俺が居酒屋で体験した不思議な出来事についてだ。普通の人には気づかれないだろうけど、俺にはその場に『いるはずのない人』が見えたんだ。」
リョウが身を乗り出した。「いるはずのない人?どういうことだ?」
アキラは少し微笑んで話を続けた。
「それは、友人と食事をしていた時のことだ。俺たちは普通に会話をしながら料理を楽しんでいた。ところが、近くのテーブルに一人で座っている男性の前に、突然もう一人の人物が現れたんだ。普通の人にはわからなかったみたいだが、俺には一目でその『現れた人』がこの世のものじゃないとわかった。」
「…その場で何かしたのか?」私が思わず聞いた。
「いや、特に何もしなかった。その二人は、まるで親友のように楽しそうに食事を始めたんだ。声を上げて笑ったり、時折肩を叩き合ったりして、本当に仲が良さそうだった。」
アキラはその時のことを振り返りながら語り続けた。
「俺が一緒にいた友人は、その様子を見ても何も不思議がらなかった。彼にはその『現れた人』が普通の人間に見えていたんだ。でも、俺にははっきりと見えていた。見た目は普通の人間と変わらない。ただ、どこか空気が違っていて、何とも言えないものを感じた。」
「その時、俺は気づいた。きっとその『現れた人』は、生前の親友と再会したかったんだろうと。親友に会い、食事を楽しみ、笑い合う。その姿には、どこか切なさもあったけど、害を与える気配は全くなかった。それに、俺が口を挟む必要もないと思ったんだ。だから、そのまま放っておいた。」
リョウが首を傾げた。「それで、そのまま何も起きなかったのか?」
「ああ、その時はそれで終わりだと思っていた。でも、数か月後、また同じ居酒屋に行った時、再びその二人を見かけたんだ。前回と同じように、一人の男性の前に『いないはずの人』がいて、二人で楽しそうに話をしていた。」
「その光景を見て、俺はなんだか温かい気持ちになった。きっと、現れた方の人はこの世を去ってもなお、親友と過ごす時間がどうしても欲しかったんだろう。生きている方も、その存在を受け入れているようだったし、何よりお互いが心から楽しそうだった。だから俺は、また何もせずにそのままにしておいたんだ。」
アキラは微笑みながら、話を締めくくった。
「世の中には、こういう不思議なこともあるんだろうなと思った。人が亡くなった後でも、こうして絆が続くことがあるのかもしれない。それを目撃した俺としては、特に手を出す必要も感じなかった。ただ、二人の友情を静かに見守るだけで十分だったんだ。」
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