仕事に追われる日々だった。会社では理不尽なクレーム、上司からの圧、そして終わらない書類作業。毎日疲れ果て、帰宅する頃には心も体もボロボロだった。
そんな生活が続いていると、楽しみなんてほとんどなくなる。夕飯だって駅前の弁当屋で買った弁当を適当に選び、家でテレビを眺めながら食べるだけ。
どの弁当も似たような味に感じる。唐揚げ弁当、ハンバーグ弁当、焼き魚弁当――どれも違うはずなのに、口に運ぶと同じような味がする。疲れているせいだろうか。それとも心が何かを失っているのかもしれない。
目次
不思議なぬいぐるみ
そんなある日、休日にふと立ち寄ったリサイクルショップで目に止まったのは、小さなぬいぐるみだった。犬の形をしたそれは、どこか古びていて、長い間誰にも触れられなかったように見えた。それでも妙に愛嬌があり、なぜか手に取ると手放せなくなった。
「こんなの買ってどうするんだろう?」
そう思いつつ、気づけば買い物袋に入れて家に持ち帰っていた。家に着くと、ぬいぐるみをソファに置き、その隣で駅前で買った弁当を開ける。いつものように食べ始めたが、ふとぬいぐるみが視界に入り、なんとなく話しかけてしまった。
「今日も疲れたよ……。この仕事、いつまで続けられるのかな」
もちろん返事なんてあるわけがない。それでも、ただ話しかけるだけで心が少し軽くなる気がした。
ぬいぐるみの魔法
次の日も、その次の日も、ぬいぐるみに話しかける習慣が続いた。「今日は怒られたよ」「弁当の味、なんか全部同じなんだよな」――そんなくだらないことばかり。でも、それが少し楽しかった。
そして、ある夜のことだった。弁当を食べ終え、ソファでうとうとしていると、どこからか香ばしい匂いが漂ってきた。
目を開けると、テーブルの上には見たことのない出来立ての料理が並んでいた。あたたかい湯気を立てるオムライス、こんがり焼けた唐揚げ、彩り豊かなサラダ。
「え……?」
驚いて周りを見渡すが、誰もいない。ただ、ぬいぐるみが微かに笑っているように見えた。
不思議なご馳走
恐る恐る一口食べると、それは間違いなく美味しかった。弁当とは違う、手作りの優しい味が口いっぱいに広がる。久しぶりに「美味しい」と思えた気がする。
「これ……お前が作ったのか?」
ぬいぐるみを見て思わず呟いた。もちろん返事はない。ただ、ぬいぐるみの表情がどこか嬉しそうに見えた。
それ以来、家に帰るとぬいぐるみと向き合いながら夕飯を取るようになった。不思議なことに、弁当を買ってきてもその日は手作りの料理に変わるのだ。オムライス、スパゲティ、カレーライス――どれも懐かしい味がして、心が温かくなる。
元気を取り戻して
ぬいぐるみが家に来てから、不思議と仕事への気力が戻り始めた。上司の叱責も以前ほど気にせず、クレーム対応にも余裕を持てるようになった。
そして、ある日ふと気づいた。駅前の弁当の味が、ちゃんと違うと感じられるようになったのだ。「これが唐揚げの味だ」「これが焼き魚の味だ」――疲れ切っていた味覚が蘇ったかのようだった。
ありがとう、ぬいぐるみ
数か月が経ち、仕事も少しだけ余裕が出てきた頃、ふと気づいた。いつもテーブルに座っているはずのぬいぐるみが、いなくなっていたのだ。
部屋中を探しても見つからない。まるで最初から存在しなかったかのように、ぬいぐるみの気配が消えていた。
「どこへ行っちゃったんだろうな……」
寂しい気持ちを抱えながらも、どこか納得している自分がいた。きっと、僕に必要な間だけそばにいてくれたのだろう。
ぬいぐるみの魔法
それ以来、ぬいぐるみが戻ってくることはなかった。でも、弁当の味は今も変わらず美味しいし、仕事から帰る疲れた体で家に帰ると、ふっと心が軽くなる瞬間がある。
あのぬいぐるみがいた日々は夢だったのかもしれない。でも、そのおかげで僕の毎日は確かに変わった。きっと、これからもあの温かな魔法の記憶が僕を支えてくれるだろう。
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