大学の帰り道、ふと見つけた小さなアンティークショップ。古びた看板と窓際に並ぶ雑貨の数々が妙に目を引き、何気なく店の中に足を踏み入れた。店内には、時計や陶器、アクセサリー、そしてアンティークドールが並んでいた。
その中でもひときわ目を引いたのは、窓際の棚に飾られた一体の人形だった。古いガラスのケースに入ったその人形は、金色の巻き毛とブルーのドレスをまとい、大きな瞳がどこか優しい雰囲気を漂わせている。
「これ……いいな」
思わずつぶやいたその声に、店主らしい白髪の老婦人が話しかけてきた。
「いい目をしているね。その子は特別なんだよ。持ち主に幸せを運ぶって言われてるんだから」
目次
ドールとの出会い
半信半疑だったが、なぜかその人形に惹かれるものを感じ、少し奮発して買うことにした。家に帰り、部屋の棚に飾ると、人形が部屋の雰囲気にすっと馴染んだ。
それからしばらく、特に変わったことは起こらなかった。ただ、ふと視線を向けるたびに、その人形の微笑みがどこか心を癒してくれる気がした。
小さな奇跡
ある日、大学で課題に追われて疲れ果てた帰り道のこと。雨が降り出し、傘を持っていなかった僕は、駅までびしょ濡れになりながら歩いていた。すると、突然後ろから声が聞こえた。
「これ、使ってください」
振り返ると、同じ大学のクラスメイトで、普段あまり話したことのない女性が傘を差し出してくれた。
「え、いいの?」
「家が近いから大丈夫です。お疲れみたいだったので」
そんな言葉に救われるような気がした。その日はそれ以上話すこともなく別れたが、彼女の優しさがずっと心に残った。
人形の変化
その夜、帰宅して部屋に入ると、ふと棚の上のアンティークドールが目に入った。
「おかえり」
もちろん、人形が話したわけではない。ただ、その微笑みがいつもより優しく、まるで僕を迎えてくれているように見えたのだ。
さらに不思議なことに、ドレスの裾に少し濡れた跡があるのに気づいた。まるで、雨の中で何かを守ってくれたかのような……。
小さな幸せが続く日々
それからというもの、日常に小さな「幸せ」が増えていった。忘れかけていた友人からの連絡、落とした財布がすぐに見つかったこと、クラスメイトだった彼女との交流が増え、やがて親しくなったこと。
どれも些細なことかもしれないが、これまでの平凡で少しだけ寂しい日常に、色がついていくような感覚だった。そしてそのたびに、ふとアンティークドールに目をやると、どこか満足そうに微笑んでいるように感じた。
ドールの別れ
ある日、棚の人形にふと話しかけた。
「ありがとう。最近、なんだかいいことが多いよ」
当然、返事はない。ただ、その微笑みがどこか「もう安心してね」と言っているように見えた。そして翌朝、人形を飾っていたガラスケースが何の前触れもなく割れていたのだ。
そのせいで、人形が傷ついてしまいアンティークショップに持ち込み、修理を依頼することにした。しかし、店主の老婦人はケースを見て首を振った。
「この子、もう役目を果たしたんだね。あなたに幸せを運ぶのが使命だったのよ」
その言葉を聞いて少し驚き、少し寂しかったが、不思議と納得する気持ちもあった。
微笑みを忘れずに
アンティークドールは修理されることなく、店に戻された。それ以来、僕は部屋に人形がない生活に慣れていったが、彼女がくれた微笑みと小さな幸せの記憶は、今でも心に残っている。
人形の微笑みは、僕にとっていつまでも忘れられない、不思議で優しい宝物だ。
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