目次
不気味な飾り
タカシの職場には、いつからかアンティークの人形がいくつも飾られていた。もともとは、社長が趣味で集めているものらしいが、妙にリアルなその人形たちは社員たちに評判が悪かった。
「なんでこんな不気味なものを職場に置くんだろうな」
昼間、同僚たちがよくぼやいていたのをタカシも覚えている。
それらの人形は、会議室や休憩スペースの棚に並べられ、大きなガラスケースの中で静かに鎮座していた。長いまつ毛に陶器のような肌、古びたドレス――どれも見事な作りだったが、それがかえって異様な雰囲気を醸し出していた。
深夜残業の始まり
タカシは、繁忙期のプロジェクトで深夜まで残業する日々が続いていた。その日も、オフィスに残っていたのはタカシだけだった。
深夜1時を過ぎた頃、静まり返ったオフィスにキーボードを叩く音だけが響く中、ふと背後のガラスケースが気になった。
そこには、大きな瞳を持つ3体のアンティークドールが並んでいた。昼間は周囲の喧騒に紛れて気にならなかったが、夜中の静寂の中では、その人形たちの存在感が異様に際立っていた。
タカシは背筋を伸ばし、なるべく気にしないように画面に視線を戻した。
視線のような気配
作業に集中しようとするが、どうしても気になる。まるで誰かに見られているような感覚が、じわじわと背中にまとわりついてくるのだ。
我慢できずに振り返ると、やはりそこには人形たちがいた。
静かに、しかしどこか不自然な角度でこちらを見つめているように感じる。
「気のせいだ……」
そう自分に言い聞かせながら、もう一度パソコンに向き直った。だが、今度は微かな音が耳に届いた。
カタ……カタ……
それは、棚のガラスケースが微かに揺れるような音だった。タカシは心臓が跳ね上がるのを感じたが、勇気を振り絞って立ち上がり、音のする方を確認した。
ガラスケースには何の異常もない。人形たちは相変わらず無表情のまま、そこに座っていた。
動いているような錯覚
タカシは再び席に戻り、作業を再開しようとしたが、どうにも気持ちが落ち着かない。ふと、ガラスケースの中をもう一度見た時、人形の顔の角度がほんのわずかに変わった気がした。
「……いや、そんなはずない」
自分にそう言い聞かせながら、もう一度振り返る。だが、今度は3体のうち1体の人形がガラスケースの端に寄っているように見えた。
心臓が早鐘を打つ。目の錯覚だ、絶対にそうだ。そう思いながらも、背中には冷たい汗がじっとりと滲んでいた。
終わらない夜
気のせいだと自分に言い聞かせながら作業を続けるが、どうしても人形のことが気になり、何度もガラスケースを振り返ってしまう。
そんな中、突然――
ガン!
何かが大きな音を立てた。思わず声を上げ、振り返ると、ガラスケースの扉がほんの少しだけ開いていた。
「……おかしいだろ……鍵は閉まってたはずだ……」
タカシは震える足で立ち上がり、ケースの扉を閉めた。人形たちは相変わらずそこにいる――と思ったが、よく見ると、一体の人形の手が少し前に伸びているように見えた。
まるでこちらに何かを訴えかけるような、その不自然なポーズに、タカシは一気に恐怖を感じ、カバンを掴んでオフィスを飛び出した。
後日談
翌朝、タカシが出社すると、昼間のオフィスはいつもの賑わいを取り戻していた。ガラスケースの前を通りかかったが、昨夜の異常な状況が嘘のように、人形たちは静かに元の場所に収まっていた。
同僚にそれとなく「深夜に、人形のこと気になったことある?」と尋ねると、一人がこう答えた。
「たまに夜中に残ってると、視線を感じるって話はあるけどね。でも気にしないほうがいいよ」
タカシはそれ以来、深夜残業を避けるようになった。あの人形たちが、ただの装飾品であるのか、それとも何か別の存在なのか――確かめる勇気は、もう二度となかった。
その人形たちは、今もガラスケースの中でじっとこちらを見ている。
■おすすめ
マンガ無料立ち読み
1冊115円のDMMコミックレンタル!
人気の漫画が32000冊以上読み放題【スキマ】
人気コミック絶賛発売中!【DMMブックス】
ロリポップ!
ムームーサーバー
新作続々追加!オーディオブック聴くなら - audiobook.jp
新品価格 |
ページをめくってゾッとする 1分で読める怖い話 [ 池田書店編集部 ] 価格:1078円 |