小学3年生の春、私は新しい学校に転校してきた。初めてのクラス、初めての友達――そんな期待があったはずなのに、うまく馴染めなかった。人見知りの性格が邪魔をして、話しかける勇気がどうしても出なかったのだ。
学校から帰ると両親はまだ仕事中で、家には私一人だけ。夕方は家の近くの公園に行くことが多かった。携帯電話を持っていれば公園に行っていいと言われていたけど、遊び相手がいない私には、ブランコに揺られて一人ぼんやりするくらいしかやることがなかった。
目次
草むらのお地蔵さん
ある日、公園の奥の草むらで、小さな石の人形――まるでお地蔵さんのようなものを見つけた。
ひっそりとした場所にポツンと立つその人形は、誰にも見られることなく、ずっとここにいたんだろう。なんだか寂しそうに見えて、私は声をかけてみた。
「ここにいると誰も来なくて退屈でしょ?」
もちろん答えは返ってこない。でも、その寂しさを分けてもらうような気持ちで、葉っぱをお皿にして、おままごとを始めた。小さな石を食べ物に見立て、私一人でお地蔵さんと遊ぶ。
それが思いのほか楽しくて、時間を忘れてしまった。気づけば夕方。急いで家に帰ると、もっと遊びたい気持ちが膨らんでいた。
お地蔵さんとの遊び
それから私は、暇さえあればお地蔵さんの元へ通うようになった。学校の帰り道や休日、誰もいない草むらで、一緒におままごとをするのが日課になった。
ある日、私はついお地蔵さんに悩みを打ち明けてしまった。
「本当は友達が欲しいの。でも、誰かと話すのが怖いの。だから、お地蔵さんが遊んでくれて、すごく嬉しいんだ」
その時だった。
「大丈夫。もうすぐお友達ができるよ」
どこからか、男の子の声が聞こえた気がした。驚いてお地蔵さんを見つめるが、そこにはいつもの石の姿しかない。
「……気のせいかな?」
胸がドキドキしていたが、気のせいだと思うことにした。
新しい友達
それから数日後のこと。いつものようにお地蔵さんとおままごとをしていると、草むらの中にクラスメイトの女の子が現れた。
「ここで何してるの?」
突然の出来事に私は驚き、少し恥ずかしそうに答えた。
「お地蔵さんとおままごと……」
「男の子いなかった?なんだか声が聞こえた気がしたんだけど」
「え?」
一瞬、あの時の声を思い出したけど、そんなはずないと思い直し、「いないよ。私とお地蔵さんだけ」と答えた。
すると、その子はにっこりと笑った。
「そっか。でも楽しそうだね。私も入っていい?」
「……うん、いいよ。一緒に遊ぼう!」
初めてできた友達。その日から私の放課後は大きく変わった。友達と一緒に遊ぶ時間が増え、公園で笑い声をあげる日々が始まった。
お地蔵さんとの約束
それでも、時々私はお地蔵さんの元を訪れた。
「ねえ、この間は○○ちゃんと遊んだんだよ!」
「今日、学校でこんなことがあったんだ」
お地蔵さんはもちろん黙ったままだ。でも、遊び始めた頃と同じように、どこか優しく見守ってくれている気がする。
お地蔵さんのおかげで、私は友達を作る勇気をもらえたんだと思っている。
「ありがとう、お地蔵さん」
そう言うと、ふと風が吹いて葉っぱが揺れた。まるでお地蔵さんが微笑んでいるような気がして、私は心の中でそっとお礼を言った。
それ以来、草むらのお地蔵さんは私だけの秘密の友達であり、感謝を伝える場所になった。今でも時々、あの公園を訪れるたびに思い出す。
あの日、お地蔵さんがくれた「もうすぐお友達ができるよ」という言葉を。
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