その夜、僕は高層ビルの上階にあるオフィスで残業をしていた。外はすっかり暗くなり、窓には街のネオンがきらめいている。周囲の静けさが妙に際立ち、キーボードを叩く音だけが響いていた。
時計を見ると、もう夜中の1時を回っている。資料の締切が迫り、疲労は限界だったが、終わらせるまでは帰れない。
目次
謎の猫の声
その時だった。
「ニャー……」
不意に猫の鳴き声が聞こえた。
「猫……?」
耳を疑った。このビルは20階以上の高層階だ。猫が入り込むはずもない。聞き間違いだろうと無視して仕事に戻った。
だが、しばらくしてまた聞こえた。
「ニャー……ニャー……」
今度ははっきりとした鳴き声だ。まるで近くから聞こえるようだった。
不安になり、オフィス内を見回したが、当然猫などいない。疲れすぎて幻聴でも聞こえたのかもしれない。そう自分に言い聞かせ、席に戻った。
増えていく声
ところが、それから鳴き声は止むどころか、少しずつ増えていった。
「ニャー……ニャー……ニャアア……」
1匹だけだった声が、2匹、3匹と増え、次第にあちこちから響いてくるようになった。どの声も微妙にトーンが違い、それぞれの猫が一斉に鳴いているように感じる。
「どうなってるんだ……?」
椅子から立ち上がり、音の出所を探したが、オフィスには僕以外誰もいない。静まり返った空間に、猫の鳴き声だけが奇妙に反響している。
数え始める
怖さが徐々に募り、冷静さを保つために机に戻った。落ち着かせようと、鳴き声の数を数え始めることにした。
メモ帳を開き、ペンを握り、聞こえる声の数を「正」の字で記録していく。
「1……2……3……4……」
だが、数えるうちに声がさらに増え、追いつかなくなってきた。
「5、6、7……いや、こんなにいるわけがない!」
手が震え、ペンが止まらなくなった。耳元で鳴き声が絡みつき、オフィス中が猫の鳴き声で満たされていく。
「ニャアア……ニャー……ニャオオ……」
無数の猫が周囲を取り囲み、僕の脳をかき乱す。デスクの下、天井の隅、パソコンの裏――どこにいても猫が潜んでいるような気がしてくる。
突然の静寂
次の瞬間、頭がぐらりと揺れたような感覚に襲われた。
そして、気がつけばデスクに突っ伏していた。
「……え?」
あれだけ鳴り響いていた猫の声は消え、周囲にはいつもの静けさだけが戻っていた。
「今のは……夢?」
そんなはずはない。あの鳴き声のリアルさ、増え続ける声の恐怖――それが幻だったなんて信じられない。
メモ帳の「正」の字
不安に駆られながらデスクの上を見ると、開いたメモ帳が目に入った。そこには、震えるような字で「正」の字がいくつも記されていた。
1、2、3……いくつもの「正」の字が並び、最後の数は47匹。
「……こんなに数えたのか?」
指先が冷たくなり、喉が乾いた。
夢でないなら、あの鳴き声は一体何だったのか――。
それ以降、僕は深夜残業をできるだけ避けるようになった。あの夜を思い出すたび、耳の奥に猫の鳴き声が蘇るような気がしてならない。
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