その夜、僕は終電も逃してオフィスに残っていた。書類の締切が迫り、頭はぼんやりしつつもキーボードを叩き続ける。時刻はすでに夜中の1時を過ぎていた。
この高層ビルの上階には僕しかいない。静まり返ったオフィスにはパソコンのファンの音だけが響いている。
ふと耳を澄ますと、どこからか「ニャー……ニャー……」と猫の鳴き声が聞こえた。
目次
高層階で聞こえる猫の声
「猫……?」
このビルは30階建ての高層ビルで、猫が入り込めるような場所ではない。外にいるわけでもなく、声は確かに室内から聞こえているようだった。
「気のせいだろう」
そう自分に言い聞かせて作業を続けるが、鳴き声は繰り返し聞こえてくる。
「ニャー……ニャー……」
しかも、だんだんと近づいてきているような気がする。
不気味な鳴き声
耐えられなくなり、立ち上がってオフィスを歩き回った。声の出どころを探していると、休憩室のあたりから鳴き声が聞こえてきた。
「まさか……こんなところに?」
恐る恐る休憩室のドアを開けると、そこには何もいなかった。けれど、声はさらに大きくなり、今度は別の場所から聞こえ始める。
まるで声がオフィス中を移動しているようだ。
見慣れないお地蔵様
声を追いながら執務室に戻ると、デスクの上に奇妙なものが置いてあるのに気がついた。
それは、小さなお地蔵様の像だった。
「こんなもの……誰が置いたんだ?」
見覚えのないその像は、手のひらほどの大きさで、赤い前掛けがかけられていた。どこか古びていて、長い間放置されていたような雰囲気だ。
僕は困惑しつつも、触れるのが怖くて像をそのままにして作業を再開した。
増える鳴き声
しかし、その後も猫の鳴き声は止まらなかった。しかも、声が1匹だけではなくなっている。
「ニャー……ニャー……ニャー……」
次第に増え、声は四方八方から聞こえるようになった。まるで無数の猫が僕を取り囲んでいるようだ。
頭がおかしくなりそうだった。耐えきれず、お地蔵様を見つめながら叫んだ。
「何なんだよ! なんでこんなことが起きてるんだ!」
その瞬間、鳴き声がピタリと止まった。
目を開けると
突然の静寂に息を呑んだ。全身に鳥肌が立つ中、ふと気づくとデスクに突っ伏していた。
「夢……だったのか?」
しかし、デスクの上には依然として小さなお地蔵様が置いてあり、手元のメモ帳には「猫の数」を数えた「正」の字がびっしりと書かれていた。
振り返ると、オフィスの隅にお地蔵様の影が一瞬揺れた気がした。
気味の悪い記憶
翌日、上司にお地蔵様のことを尋ねると、「そんなものは見たことがない」と言われた。それ以降、猫の声は聞こえないが、デスクの引き出しを開けるたび、赤い前掛けの色が頭をよぎる。
あの夜の出来事が幻覚だったのか、それとも現実だったのか――僕には今もわからない。ただひとつ確かなのは、猫の声を思い出すたび、背筋が冷たくなるということだ。
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