その日は、久しぶりに深夜まで残業が続いた。気持ちを切り替えようと、帰宅後に散歩に出ることにした。普段なら夜遅くに外へ出るなんて考えもしないが、仕事で凝り固まった頭を冷やしたかった。
月明かりに照らされた静かな住宅街を歩く。時間も遅いせいか、人影はまるでない。疲れた体を引きずりながら、適当に足を進めていると、ふと猫の鳴き声が聞こえた。
「ニャー……」
住宅街では珍しくないはずだが、その声はどこか耳障りで、不気味な響きを持っていた。
目次
お地蔵様との出会い
鳴き声の方へ自然と目を向けると、路地の奥に小さなお地蔵様が見えた。赤い前掛けを身に着けたその姿は、どこにでもあるようなものだが、この住宅街にそんなものがあった記憶はない。
「こんな場所に……?」
妙な違和感を覚えながらも、僕はその路地に足を踏み入れた。お地蔵様の周りには猫が集まっているように見える。暗がりでよく見えないが、小さな影が何匹も動いているのが分かった。
それでも不思議と怖さはなく、むしろその場がどこか厳かな雰囲気を漂わせている気がした。
猫の鳴き声が増える
「ニャー……ニャー……」
お地蔵様の近くに立つと、猫の鳴き声が増え始めた。最初は一匹だけだったのに、次第に何匹もの声が響き渡る。
しかし、辺りを見回しても猫の姿は見当たらない。確かにそこにいるはずなのに、鳴き声だけが増え続けるのだ。
「ニャー……ニャー……ニャー……」
胸騒ぎを覚えた僕は後ずさりしようとしたが、足がすくんで動けなくなっていた。
お地蔵様の変化
ふと目をお地蔵様に向けると、その表情が変わっていることに気づいた。さっきまで穏やかに微笑んでいた顔が、どこか悲しげで、何かを訴えかけているように見える。
「……何か、助けを求めているのか?」
そんな気がしてならなかった。
すると突然、周囲の鳴き声が大きくなり、耳をつんざくような音量に変わった。
「ニャオオ……ニャー!」
その瞬間、お地蔵様の足元から影が這い上がるように広がり、猫たちの輪郭がぼんやりと浮かび上がった。
闇の猫たち
暗闇に溶け込むようなその猫たちは、どれも目が真っ黒で、異様に大きな口を開けていた。
「これは……やばい……!」
逃げ出そうとしたその時、お地蔵様の前掛けが風に揺れ、かすかな鈴の音が響いた。
チリン……チリン……
その音を合図に、鳴き声が一瞬で止み、闇の猫たちも消え失せた。まるで、何事もなかったかのように。
後に残った静けさ
体が震えるのを感じながら、僕はお地蔵様に向かって頭を下げた。あの鈴の音が、猫たちを追い払ってくれたのだろうか?
それ以降、その路地には近づかないようにしている。ただ、一つだけ確かなのは――。
それ以来、疲れ切った日や深夜残業の後、どこかで微かな「ニャー……」という声を聞くたびに、胸がざわつくようになったということだ。
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