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深夜の散歩とお地蔵様 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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深夜の散歩

ユウタは最近、仕事のストレスで眠れない日々が続いていた。広告代理店で働く彼は、終電近くまで働き、帰宅しても疲れて眠れない夜が多い。

「少し歩けば気分も変わるかな……」

そんな思いで、深夜の散歩をするようになった。近所には静かな住宅街が広がっていて、時折犬を連れて歩く人に出会う程度だった。

この日も、ユウタは夜中の1時を過ぎた頃に家を出た。冷たい風が心地よく、街灯の下をゆっくりと歩いていた。

不意に聞こえた猫の鳴き声

ふと、どこからか猫の鳴き声が聞こえた。

「ニャー……」

周囲を見回すが、猫の姿は見当たらない。家の隙間から聞こえてくるのかと思ったが、特にそれらしい場所もない。

「ニャー……」

少しずつ声が近づいてくるような気がした。

古びたお地蔵様

その鳴き声に誘われるように歩き続けると、ユウタは住宅街から外れた小道に迷い込んでいた。人気のない細い道を進むと、道端に小さなお地蔵様がぽつんと立っているのが目に入った。

高さは50センチほどで、苔が生えていて、誰も手入れしていないように見える。お地蔵様の足元には、小さな賽銭箱が置かれていた。

「なんでこんなところに……」

ユウタが立ち止まると、また猫の鳴き声が聞こえた。

「ニャー……」

お地蔵様の周囲から聞こえてくるようだが、猫の姿はどこにもない。

猫の気配

ユウタは、どこかに猫が隠れているのだと思い、お地蔵様の周囲を覗き込んだ。しかし、どこにも猫はいない。

その時、背後からふいに風が吹き抜け、ユウタは身震いした。振り返ると、街灯もない薄暗い小道が続いているだけだった。

「ニャー……ニャー……」

鳴き声は徐々に増え、足元や耳元からも聞こえるような感覚に襲われた。

「なんだこれ……」

ユウタは恐怖を感じ、急いでその場を離れようとした。

逃げられない道

足を速めて小道を抜けようとするが、どこを歩いてもお地蔵様が視界に入ってくる。まるで、同じ場所をぐるぐると回っているような錯覚に陥った。

その間も猫の鳴き声は止まらず、ますます大きくなっていく。

「ニャー……ニャー……ニャー……」

それは、まるで猫たちが彼を囲んでいるような感覚だった。ユウタは半ばパニック状態で走り出したが、お地蔵様がまた目の前に現れた。

何かの気配

ユウタが息を切らして立ち止まると、ふいに猫の鳴き声が止んだ。辺りは静まり返り、風すら止まっていた。

お地蔵様の前に立つと、背後に何かの気配を感じた。振り返る勇気が出ず、ユウタは賽銭箱を見つめた。

「……すみません……」

ポケットから財布を取り出し、小銭を賽銭箱に入れると、どこからか鈴の音が聞こえた。

その音に続き、また一匹だけ猫が鳴いた。

「ニャー……」

鳴き声は徐々に遠ざかり、静寂が戻ってきた。

帰り道

ユウタはふらふらと小道を抜け出し、気づくと自宅近くの通りに戻っていた。振り返ると、さっきの小道やお地蔵様はどこにもなかった。

「……なんだったんだ、あれは……」

その夜以来、ユウタは深夜の散歩をやめることにした。ただ、時折自分の部屋で、かすかに猫の鳴き声を聞くことがある。

それが現実なのか、幻覚なのか――ユウタには、もう確かめる勇気はなかった。



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