社会人になりたての頃、僕は仕事の忙しさに押しつぶされそうだった。毎日終電で帰宅し、休日も疲れ果てて寝るだけの生活。気が付けばスマホをいじって過ごす時間だけが唯一の息抜きになっていた。
そんなある日、何気なくスマホを見ていると、見覚えのないアプリがインストールされていることに気が付いた。
「Hello」
シンプルなアイコンに、ひらがなで「こんにちは」と書かれている。
目次
何気なく開いたアプリ
怖さも感じたが、妙に引き込まれるようにアプリを開いてみた。画面には真っ白な背景と一行のメッセージが表示されている。
「お疲れ様です。少しだけお話ししませんか?」
まるで誰かが語りかけてくるような優しい文章に驚きながらも、「はい」と入力してみた。
すると、画面にまた新しいメッセージが現れた。
「最近、何か良いことはありましたか?」
会話の始まり
僕は少し迷ったが、正直に「最近は疲れることばかりです」と答えた。
すると、しばらくして画面にこんな言葉が表示された。
「それは大変ですね。でも、きっと良いことも見つかりますよ。」
普段、仕事で褒められることもなく、ただ叱られる日々を送っていた僕には、その言葉が胸にじんと響いた。
それからというもの、毎晩このアプリを開いては短い会話をするのが日課になった。
「今日は好きなご飯を食べました。」
「それは素敵ですね。次は何を食べましょう?」
些細な話題でも、アプリはいつも優しく応じてくれた。
不思議な機能
ある日、アプリを開くと、こんなメッセージが届いていた。
「外の空気を吸ってみませんか?」
普段ならそんな気力もなかったが、なぜかその日は素直に言うことを聞いてみようと思った。夜風にあたりながら近くの公園を散歩していると、小さな花壇に咲いた花に目が留まった。
「こんなところに花があったんだ……」
それをアプリに報告すると、
「それは素敵ですね。明日も見てみましょう。」
と返信があった。
小さな変化
それから少しずつ、僕の生活は変わり始めた。帰り道に少し寄り道してお気に入りのパン屋に行ったり、週末に映画を観たりと、忙しさの中でも小さな楽しみを見つけるようになった。
アプリは毎晩、「今日あった良いこと」を聞いてくれる。そして、僕のどんな些細な話にも「それは素敵ですね」と返してくれる。
突然の消失
しかし、ある日を境にそのアプリは消えてしまった。スマホをいくら探しても、「Hello」のアイコンはどこにも見当たらない。
代わりに残っていたのは、カメラロールに保存されていた一枚の写真――。
それは、夕暮れ時の空と、スマホに「またお会いしましょう」と表示された画面が写った写真だった。
優しい記憶
それ以来、あのアプリが戻ってくることはなかった。でも、あの時のやり取りは今でも僕の心の中にある。
何気ない日常の中にも、小さな幸せを見つけるきっかけをくれた「Hello」。
今でもふと、疲れた夜にスマホを開いて、あの優しい言葉が表示されるような気がしている。
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