目次
【プロローグ】
毎朝6時半に起きて、通勤電車に揺られるサラリーマンの直樹は、仕事が嫌で嫌で仕方がなかった。
上司からの叱責、無駄に感じる会議、成果の上がらないプロジェクト。家に帰るといつも疲れ果ててベッドに倒れ込む生活が続いていた。
「こんな毎日、もううんざりだ…」
心の中でそう呟きながら乗り込むいつもの電車。だが、その日はいつもと少しだけ違っていた。
【違和感の始まり】
会社へ向かう電車の中、直樹はただ窓の外をぼんやりと眺めていた。いつもと変わらない風景。住宅街を抜け、商業ビルが見え始める頃、電車は突然スピードを上げた。
「おかしいな…」
次の駅で降りるつもりだったが、電車はホームを通過して止まらない。他の乗客も特に動揺する様子はない。
車内アナウンスが流れる。
「次は…降りられない駅。」
冗談かと思ったが、周囲を見渡しても誰もアナウンスを気にしていない。直樹は冷や汗をかきながら、窓の外を再び眺めた。
【降りられない駅】
電車はやがてトンネルを抜け、見たことのない場所に停車した。駅名板には、黒い文字で「帰路駅」とだけ書かれている。
不思議なことに、乗客の何人かが席を立ち、静かに降りていった。直樹も流されるようにホームに足を踏み入れたが、駅には出口が見当たらない。
「何だ、この場所…?」
薄暗い照明が照らすホームの先には、古びた案内板があり、そこに奇妙な言葉が刻まれていた。
「仕事を辞めたい人はこちらへ。」
矢印が指す先には、さらに奥へ続く細長い通路があった。
【選択のドア】
通路を進むと、一枚の古びた木製のドアが現れた。ドアには金色のプレートが取り付けられており、こう書かれている。
「この先に進めば、仕事のない人生が待っています。ただし、一度進んだら戻ることはできません。」
直樹はしばらく考えた。仕事にうんざりしているが、本当にその先に進むべきなのか?
だが、振り返ると、電車に戻る道はもう閉ざされていた。
「進むしかないのか…」
覚悟を決めてドアを開けると、そこには美しい緑が広がる丘の風景が待っていた。
【不思議な生活】
その後の生活は、夢のようだった。朝は鳥の声で目を覚まし、誰にも急かされることなく好きなように過ごす。食事は豊富に用意され、労働をする必要は一切ない。
「これが、本当に自由な人生なんだ…」
直樹は最初の数日は天国のような暮らしを楽しんだ。しかし、次第に彼は気づき始めた。
この世界には他に人がいないのだ。
どんなに広い草原を歩いても、誰一人として出会うことはない。話し相手も、何かを分かち合う相手もいない孤独感が徐々に胸を締め付ける。
【元の生活への道】
「ここを出たい…」
そう思った直樹は、かつて通ったドアを探したが、見つからない。周囲にはただ果てしない緑の風景が広がるばかりだった。
その時、風に乗って声が聞こえた。
「もう一度働きたいなら、代わりに何を差し出しますか?」
声の主はわからないが、直樹は必死に叫んだ。
「何でもいい!何でも差し出すから、元に戻してくれ!」
【奇妙な帰還】
気がつくと、直樹は自分のデスクに座っていた。見慣れたオフィス、響き渡る電話の音、そして上司の怒鳴り声。
「あれは夢だったのか…?」
そう思ったが、腕時計を見ると時間はおかしなことに1年後の日付を指していた。
机の引き出しを開けると、一枚の紙切れが入っていた。
そこにはこう書かれていた。
「自由な人生の代償は、時間。」
【エピローグ】
直樹は再び仕事をする日常に戻ったが、それ以来、通勤電車で「帰路駅」に行く夢を見ることがあるという。そして、その夢を見るたびに、時計の針が少しずつ進んでいる気がしてならない。
仕事に疲れた時、あなたの電車も「帰路駅」に向かっていないだろうか?
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