目次
プロローグ
フリーランスとして在宅で仕事をする日々は、自由である反面、どこか閉塞感がつきまといます。主人公の隆也(たかや)はそのリズムを整えるため、毎朝近所を散歩して気分転換をしてから仕事に取りかかるのが日課でした。しかし、ある朝を境に、彼の日常は奇妙なものへと変わっていきます――。
本文
その日も隆也は、いつものように散歩に出かけました。自宅の周囲は静かな住宅街で、何度も歩き慣れた道です。
小鳥のさえずりを聞きながら、隆也はふと今まで通ったことのない細い路地を見つけました。
「こんな道あったっけ?」
興味をそそられた彼は、その路地に足を踏み入れました。道は古びた石畳で、両脇に木造の家が並び、どこか昭和の雰囲気が漂っています。数分歩くと、ひときわ目を引く一軒の家が目に入りました。
その家は白い木造建築で、庭には季節外れの紫陽花が咲き誇っています。まるで絵本から飛び出したかのような美しい佇まいに、隆也は思わず立ち止まりました。
玄関には古びた郵便受けがあり、そこには「井上」と手書きで書かれたプレートが掛かっています。
「いい雰囲気の家だなあ……こんな場所にこんな家があるなんて知らなかった。」
そう思いながら帰宅した隆也は、その後、通常通り仕事に取りかかりました。しかし、どこか頭の片隅であの家の印象が消えませんでした。
翌日の発見
翌朝、隆也は再び散歩に出かけました。同じ路地に行き、もう一度あの家を見ようと思ったのです。しかし、いくら探してもその路地が見つからない。代わりにそこには、新しく整備された駐車場が広がっていました。
「確かにここを歩いたはずなんだけど……。」
不思議に思いながらも、隆也はそれ以上気にしないことにしました。しかし、その日の夕方、仕事に集中していると、不意に玄関のチャイムが鳴りました。
ドアを開けると、そこには郵便配達員が立っており、彼に一通の封筒を手渡しました。封筒は古びており、宛名には「井上家」と書かれています。
「これ、うちじゃないんですが……。」
隆也がそう言うと、配達員は首を傾げました。
「いや、確かにこの住所で間違いないですよ。」
混乱しながら封筒を開けると、中には1枚の手紙が入っていました。
「明日の朝、庭でお待ちしています。井上」
真実への道
翌朝、隆也は再び路地を探しに行きました。すると、昨日は見つからなかった路地が、まるでそこにずっとあったかのように目の前に現れました。
彼は吸い寄せられるように路地を進み、再びあの白い家にたどり着きました。家の前には初老の男性が立っていました。彼は微笑みながら隆也を迎えました。
「来てくれてありがとう。あなたに見つけてもらえるのを待っていました。」
隆也はその言葉の意味が分からず、「どういうことですか?」と尋ねました。すると井上と名乗るその男性は、家の中へ案内しました。
家の中はどこか古びているものの、整然としていて心地よい空気が漂っていました。
井上は静かに話し始めました。
「この家は、あの世とこの世の境目にあるんです。迷い込んだあなたには、何か心に引っかかるものがあったのでしょう。」
意味が理解できないまま話を聞いていると、気がつけば井上の姿は消えていました。そして、家の中には隆也一人だけが取り残されていました。
結末
それから何日か経ち、あの路地も、あの家も二度と見つかりませんでした。ただ一つ変わったのは、隆也の自宅の郵便受けに「井上家」のプレートが掛かっていることでした。
それ以来、毎朝の散歩の途中で、彼は時折見覚えのない風景に出くわすようになりました。それはきっと、自分の気づかない心のどこかが新たな「境目」を求めているからかもしれません――。
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