目次
プロローグ
長期出張、それも嫌いな仕事となると、毎日が地獄のように感じられる。主人公の徹(とおる)は、生活のためとはいえ、心を削られるような日々を過ごしていた。さらに、数か月に及ぶ出張で、見知らぬ土地での孤独感が重くのしかかっていた。
そんな彼が、出張中の休日に偶然見つけた奇妙な場所――それは、彼の心をほんの少し軽くする出来事の始まりだった。
本文
徹は営業職に就いている30代の男性。自分には向いていないと分かりつつも、転職する余裕もなく、惰性で仕事を続けていた。顧客とのやり取り、数字に追われるプレッシャー、そして上司からの叱責。どれもが耐え難く、日々仕事を辞めることばかり考えていた。
今回の長期出張は地方都市での業務。片道2時間以上かけて得意先を回り、夜は安ホテルでの一人きりの生活。徹にとって、それは自分が追い詰められていることをさらに実感させる時間だった。
「あと数か月もこんな生活が続くなんて……。」
そんなある日、珍しく取れた休日、徹は気分転換のために街を歩いてみることにした。普段はホテルに閉じこもりがちだったが、このままでは心が持たないと思い、何か新しい刺激を求めて外へ出た。
出会いのきっかけ
街を歩き回っていると、ふと人通りの少ない路地に差し掛かった。そこは、商店街の裏手にあるような細い道で、古びた看板がいくつもぶら下がっていた。
「こんなところに店があるなんて、誰が来るんだろう?」
不思議に思いながら歩いていると、路地の奥に一軒の小さな建物が目に入った。入口には「つかの間の庭」と書かれた木の看板がかかっている。
「何だ、ここ?」
興味を引かれた徹は、恐る恐るその建物の扉を開けてみた。
「つかの間の庭」
中に入ると、そこは想像していたものとは全く違った空間だった。建物の中に広がっていたのは、まるで別世界のような美しい庭園。花々が咲き誇り、小川がせせらぎ、柔らかな日差しが降り注いでいる。
「こんな場所があったなんて……。」
徹はしばらく呆然と立ち尽くした。その庭は現実のものとは思えないほど美しく、穏やかで、不思議な安らぎを感じさせる場所だった。
しばらく歩いていると、一人の老人が近づいてきた。白い服を着たその老人は、穏やかな笑顔で徹に話しかけた。
「ここは忙しい日々に疲れた人が休む場所なんですよ。」
徹は驚きつつも、老人に最近の自分の状況――仕事が嫌で、出張も辛く、毎日が重苦しいこと――を話してみた。老人はただ頷きながら話を聞き、こう言った。
「そんなに無理しなくてもいい。ここで一休みしていきなさい。」
奇妙な癒し
庭の中で過ごしていると、不思議なことが起きた。徹は、自分の心の中の重りが少しずつ軽くなるのを感じたのだ。仕事のプレッシャーや上司の叱責も、ここでは遠い昔の出来事のように思えた。
「ここが現実なら、ずっといたいな……。」
しかし、気がつくと庭の景色が少しずつ変わり始めていた。目の前に現れたのは、かつて徹が小学生だった頃、両親と一緒に訪れた山の風景だった。家族で楽しそうに過ごしている光景を見て、徹は涙がこぼれそうになった。
「そうだ、あの頃は楽しかったな……。」
その後も庭の風景は変わり続け、徹がこれまでの人生で楽しかった瞬間や、忘れかけていた小さな幸せを映し出した。
帰り道
気がつくと徹は庭の入口に立っていた。いつの間にか外に出されていたのだ。振り返ると、そこにあった建物は消えており、ただの空き地になっていた。
「夢……だったのか?」
そう思いながらも、不思議と心は軽くなっていた。それ以来、徹は仕事に対する姿勢が少し変わった。嫌な仕事であることに変わりはないが、「この先にはきっと楽しいこともある」と思えるようになったのだ。
あの「つかの間の庭」はどこに行ったのか、それとも本当に存在していたのか――徹には分からない。ただ、その場所を思い出すたびに、少しだけ肩の力が抜けるような気がした。
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