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長期出張で見つけた『癒やしの貸家』 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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仕事が嫌で嫌で仕方ない――それが今の僕の心境だ。長期出張なんて聞いた瞬間、「最悪だ」と思った。自宅から離れ、知らない土地で何ヶ月も暮らすなんて、憂鬱以外の何ものでもない。

会社の経費を抑えるため、ホテルではなく安い貸家を借りることになったのも追い打ちをかけた。古い家らしく、写真で見た限りでは魅力を感じない。ただの木造平屋の家だ。正直、滞在中に雨漏りがしないかだけが心配だった。

初めての貸家

出張初日、その貸家に到着してみると、写真で見た通りの古びた家だった。だが、何かが妙に気にかかる。玄関前の庭には、手入れが行き届いていないはずなのに、雑草一つ生えていない。家の周りの空気が、妙に静かで落ち着くのだ。

部屋に入ると、どことなく懐かしい匂いがした。古い畳の香りと、ほんのり甘い花のような香り。それが不思議と嫌ではなかった。

「まあ、広いだけマシか……」

荷物を置き、簡単に掃除を済ませると、意外と居心地が良いことに気づいた。

小さな癒やしの始まり

翌日からの仕事は相変わらず地獄だった。嫌な上司、面倒な客先対応、長時間労働。終わるころにはクタクタで、貸家に戻るだけで精一杯だった。

しかし、帰宅すると妙な安堵感に包まれるのだ。何もしていないのに、玄関をくぐるだけで心が軽くなる。

ある夜、布団に入る前にふと天井を見上げると、小さな穴があることに気づいた。

「何だ、これ?」

虫が出てこないか不安になりながらも、その夜はぐっすり眠れた。

不思議な現象

数日が過ぎた頃、さらに奇妙なことが起こり始めた。

疲れて帰宅し、靴を脱ごうとした瞬間、玄関の隅に小さな野花が一輪置かれているのを見つけた。

「……誰が置いたんだ?」

この家には僕以外誰もいないはずだ。管理会社のスタッフが勝手に入るわけもない。不審に思いながらも、その花は不思議と目を引く美しさで、そのまま花瓶に飾ることにした。

その翌日から、貸家で過ごす時間がさらに心地よくなった。外の仕事がどれほど嫌でも、家に帰ると疲れがふっと消える感覚が続いたのだ。

穴の秘密

ある晩、天井の穴が気になって仕方がなくなり、脚立を借りて覗いてみた。中には何もなかったが、穴から見える月明かりが妙に美しかった。

その夜、夢を見た。貸家の縁側に座っていると、年配の女性が現れ、微笑みながらこう言った。

「ここはあなたが癒やされるための場所です。どうぞ心を休めてくださいね。」

目が覚めた時、その夢の記憶がやけに鮮明で、胸の中にじんわりと温かさが広がった。

不思議な家

それからも、家ではささやかな不思議が続いた。玄関には時折新しい花が置かれ、窓を開けると心地よい風が吹き込み、どんなに疲れていてもぐっすり眠れる。

仕事は依然として嫌いだったが、この家で過ごす時間が僕の心を癒やしてくれた。

出張の終わり

出張を終え、貸家を去る日が来た。最後に玄関を振り返ると、そこには一輪の新しい野花が置かれていた。

「ありがとう……」

自然と口から感謝の言葉がこぼれた。誰に言ったのか分からないけれど、その家が優しく微笑んでいるように感じた。

あとがき

帰宅後、しばらくしてあの貸家のことが忘れられず、管理会社に問い合わせてみた。しかし、すでにその貸家は老朽化のため貸し出しは終了していた。

あの家が何だったのか、今も分からない。ただ一つ言えるのは、あの場所が確かに僕を救ってくれたことだ。どんなに仕事が嫌でも、あの家のおかげで僕はまた前に進めるようになったのだと思う。



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