怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

林道の先にあった、不思議な湧き水 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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近所の林道を散歩するのが、僕の日課だ。特に何かを求めているわけではなく、ただ歩くことで頭がすっきりするし、自然の中を歩くのは気分がいい。

その日も、いつものように林道を歩いていた。日差しは柔らかく、鳥のさえずりが聞こえる。特に目立った出来事もなく、のんびりと足を進めていた時だ。

ふと視界の端に、細い道が見えた。

謎のわき道

「こんなところに道があったっけ?」

いつも通るルートなのに、こんなわき道に気づいたのは初めてだった。近寄ってみると、道幅は狭く、明らかに人のために作られたものではなさそうだった。

獣道かもしれない――そう思いつつも、好奇心には勝てなかった。

足元に注意しながら慎重に進むと、道の先にぽっかりと開けた小さな空間が見えた。そこには、石で囲われた湧水が湧き出していた。

不思議な湧水

湧水の周りには苔むした石が並び、冷たい水が静かに湧き出している。水面は太陽の光を受けてキラキラと輝いていた。

さらに目を引いたのは、湧水のすぐそばに立てられた木製の小さな看板だった。

看板には手書きの文字でこう書かれていた。

「この水は願いを叶える水。飲む者の心が正しければ、その願いは必ず叶う。」

「願いを叶える水……?」

あまりに陳腐な文言に思わず苦笑した。まるで童話の世界の話だ。だが、看板の文字は驚くほど丁寧に書かれており、悪ふざけには思えなかった。

湧水を覗き込むと、澄んだ水が冷たく流れ出していた。

「……ちょっと飲んでみるか?」

好奇心に負けて、両手で水をすくい、一口含んでみた。

願いを叶える水?

水は冷たくて澄んでいて、まるで口の中を浄化するかのような感覚だった。

「いや、特に願いなんてないけど……」

と思いながらも、心の奥底でふと考えた。

「もっと穏やかな日々が続けばいいな……」

誰にも言えないようなささやかな願い。それを思いながら湧水の場所を後にした。

不思議な変化

それから数日間、何も起こらなかった。ただ、気のせいかもしれないが、妙に心が軽くなったように感じた。仕事でトラブルがあっても冷静に対処でき、些細なことに苛立つことも減った。

さらに不思議なことに、周囲の人たちも優しくなったように感じた。以前は事務的な会話しかしなかった隣人が、笑顔で話しかけてくるようになったり、通勤途中に見かける顔なじみが親しげに挨拶してくれるようになった。

「これって……湧水のおかげなのか?」

そう思わずにはいられなかった。

再び湧水の場所へ

気になって、再び湧水の場所を訪れることにした。

しかし、林道を歩き、あのわき道を探してみても、どこにも見つからなかった。何度も行きつ戻りつしたが、湧水のあった場所にたどり着くことはできなかった。

あの湧水は、どこか消えてしまったのだろうか――それとも、初めから存在しなかったのか?

今でも思い出す

あの湧水を見つけた日から、穏やかな日々は続いている。願いを叶える水――それが本物だったのかどうかは分からない。

ただ、一つ確かなのは、あの日飲んだ水が、僕の心を変えてくれたように感じることだ。

ふと散歩をしていると、あの湧水の場所に戻れる気がして、つい周囲を探してしまう。もう一度あの水を飲んで、あの静けさを味わいたいと思うのは、欲張りすぎだろうか。



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