目次
散歩好きの主人公
カズオは、散歩が趣味の40代の男性だった。近所の林道を歩くのが日課で、自然に囲まれた静けさが心を落ち着けてくれる。
その林道は舗装された道ではなく、山道のように少し荒れていて、足元に気をつけながら進む道だ。だが、そのちょっとした冒険感がカズオのお気に入りだった。
新たな発見
その日もいつものように林道を歩いていると、普段は気づかなかった小さなわき道を見つけた。
「こんなところに道があったっけ?」
草が生い茂っていて、少し薄暗いが、明らかに人が通った形跡がある。興味に駆られたカズオは、おっかなびっくりその道を進んでみることにした。
湧水の場所
わき道をしばらく歩くと、急に視界が開け、小さな湧水の場所に出た。木々の間から光が差し込み、湧き出る水は澄んでいて、まるで宝石のように輝いている。
その場にはご丁寧に看板が立てられており、そこにはこう書かれていた。
「この水は、飲んだ者の心を映す。
慎む心で飲むべし。」
「心を映す?」
カズオは首をかしげながら看板を読み返した。不思議な説明だが、湧水の美しさに心を惹かれ、少し飲んでみたくなった。
水を飲む
湧水に近づき、両手で水をすくって飲んでみると、口の中に広がるのは今まで味わったことのない爽やかさだった。冷たく澄んだ水が喉を通り、全身に染み渡るような感覚がする。
「うまい……こんなにおいしい水、初めてだ。」
しかし、水を飲み終わると、体に奇妙な感覚が広がり始めた。
心の中の光景
突然、目の前がぼんやりと霞み始め、景色が変わっていく。気がつくと、そこは子供の頃に遊んでいた近所の公園だった。
目の前には、小さな頃の自分と、若い頃の母親の姿がある。母親が微笑みながら、手作りのお弁当を差し出してくる。
「こんなシーン……ずっと忘れてたな。」
カズオは懐かしさに胸がいっぱいになった。だが、次の瞬間、場面が切り替わり、今度は学生時代の失敗の光景が浮かび上がる。
試験勉強をさぼったせいで成績が悪くなり、教師に叱られる自分。その時の悔しさや後悔が生々しく蘇ってくる。
看板の意味
「心を映す」――その言葉の意味をカズオは理解した。この水は、飲んだ人の記憶や心情を映し出し、それを追体験させるのだ。
湧水の美しさに魅了されて飲んだ水が、自分の心の中を覗かせてきたのだ。
「不思議な水だな……でも、悪い気はしない。」
懐かしい記憶や後悔の念に触れることで、自分の心が少し軽くなった気がした。
帰り道
しばらくその場に座り込み、湧水のそばでぼんやりと時間を過ごしたカズオは、帰ることにした。
帰り道、ふと振り返ると湧水の場所は木々の影に隠れて見えなくなっていた。
「またあの場所に行けるかな……いや、行けなくてもいいか。」
心の中で湧水が見せてくれたものは、カズオにとって十分な贈り物だった。
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