目次
【プロローグ】
会社勤めの合間に、林道を散歩するのが趣味の隆司は、週末になると自宅近くの山道を歩くのが習慣だった。小鳥のさえずりや木漏れ日を浴びるひと時は、彼にとって何よりの癒しだった。
ある日、いつものように林道を歩いていると、道の途中で見慣れないわき道を見つけた。
「こんな道あったっけ?」
細く、足元に草が生い茂るその道は、獣道のようにも見えたが、なぜか気になり、少し進んでみることにした。
【湧水の発見】
しばらく進むと、木々の間から清らかな水の音が聞こえてきた。道の先に湧水の出る場所があったのだ。岩の間から透明な水が絶え間なく流れ出し、小さな池を作っていた。
「こんな場所があるなんて知らなかったな。」
さらに不思議なことに、その湧水のそばにはご丁寧に看板が立てられていた。
【看板の不思議な説明】
看板には、手書きの文字で次のような説明が書かれていた。
「この水は、あなたの心を映す鏡。
飲む者の願いを叶えるが、心に偽りがあれば代償を払う。」
「なんだこれ…まるで昔話みたいだな。」
隆司は笑って看板を見たが、看板や湧水の清らかな雰囲気がどこか現実離れしていて、不思議な感覚を覚えた。
【試しに飲んでみる】
湧水の近くには竹で作られた柄杓が置かれており、隆司はそれを手に取った。看板の説明を思い出して少し迷ったが、喉が渇いていたこともあり、一口だけ水を飲んでみることにした。
口に含んだ瞬間、驚くほど柔らかく冷たい水が喉を潤した。それと同時に、体の内側がじんわりと温かくなるような不思議な感覚が広がった。
「なんだこれ…普通の水じゃないな。」
心地よさを感じながら湧水の場所を後にしようとしたその時、突然、頭の中に子供の頃の記憶が鮮明に蘇った。
【心を映す鏡】
それは、小学生の頃の記憶だった。隆司は友達をかばって、自分が壊したわけではない教室の窓ガラスの責任を負ったのだ。先生に叱られ、親にも怒られたが、その友達に「ありがとう」と言われた時の感情が蘇った。
「どうして急にこんな記憶が…」
湧水の説明にあった「心を映す」という言葉が頭をよぎる。
「まさか、この水が俺の記憶を呼び起こしたのか?」
【願いを叶える水】
翌週、隆司は再び湧水を訪れた。心のどこかで、この水が本当に願いを叶える力を持っているのではないかと思い始めていたのだ。
「試してみるか…」
柄杓を手に取り、もう一度水を飲む。そして、心の中で願った。
「もっと、穏やかな生活がしたい。」
その瞬間、ふと体が軽くなったような感覚に包まれた。そして帰宅すると、不思議なことに、職場でのトラブルが解決していた。さらに、長い間ギクシャクしていた同僚からの謝罪のメールが届いていたのだ。
「本当に、この水のおかげなのか…?」
【代償】
しかし、その後も湧水を訪れ、願いを叶えるたびに、隆司の中に奇妙な違和感が生まれ始めた。
ある日は、道端でついついポイ捨てをしてしまった。するとその夜、夢の中で看板の言葉が繰り返された。
「心に偽りがあれば、代償を払う。」
目が覚めると、どうしてもあの湧水の場所に行く気がしなかった。
【最後の訪問】
数日後、どうしても気になり、湧水にもう一度足を運ぶことにした。しかし、いつもの場所に湧水はなく、ただ静かな林の風景が広がるだけだった。
「え…あれ、どこ行った?」
まるで最初からその場所がなかったかのように、湧水も看板も消えていた。しかし、隆司は確かに体験した奇妙な日々を思い出し、もう一度心の中で問いかけた。
「俺は、本当に心から穏やかな生活を望んでいたのか…?」
【エピローグ】
それ以来、隆司は散歩を続けているが、あの湧水の場所を見つけることは二度となかった。ただ、ふとした時に、心がざわつくと夢の中であの看板の言葉が現れる。
「心に偽りがあれば、代償を払う。」
彼は今でもその言葉を胸に刻み、少しずつ自分の本当の願いを探し続けている。
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