診察室には静かな音楽が流れていたが、今日の患者はどこか不安そうな表情を浮かべていた。私は定期的な質問を終えた後、彼が何かを話したそうにしていることに気づき、優しく声をかけた。
「何か気になることがあれば、遠慮なく話してください。」
彼は少しためらいながら、口を開いた。
「最近、妙に怖い夢を見たんです……夢なんですけど、起きた後もしばらくその感覚が残っていて。」
私は彼の不安を感じ取り、話を促した。
「どんな夢だったんですか?」
彼は深く息を吐いて、夢の内容を語り始めた。
「夢の中で、僕は自分の家にいるんです。いつもと同じ部屋で、何か特別なことがあるわけじゃなくて……でも、突然、家の中に子供の足跡が現れるんです。小さな足跡で、裸足の形がくっきりしていて、どんどん家の中を歩き回るんです。」
彼はその時の光景を思い出し、顔を少し強張らせた。
「その足跡が見えた時、どんな気持ちが湧いてきましたか?」
「最初は『何だろう』って不思議に思っただけなんです。でも、どんどん足跡が増えていくんです。一歩ずつ、音も立てずに部屋中を歩き回るようになって……それで気づいたんです。この足跡の持ち主が見えないって。」
彼の声には、夢の中で感じた不安がにじみ出ていた。私はその感覚に寄り添いながら、さらに尋ねた。
「足跡が動き回っている時、何か他に音や気配は感じましたか?」
「音は全くないんです。ただ、視線を感じるんですよね。誰かにじっと見られているような感覚がして、でも振り返ってもそこには誰もいないんです。足跡だけがどんどん増えていって、床に散らばっていくんです。見えない存在が家の中を歩き回っているようで……」
彼の声が少し震えているのに気づき、私は夢の次の展開を聞いてみた。
「その夢の中で、何か行動を起こしましたか?」
「はい。怖くなって、足跡の主を探そうと家中を歩き回ったんです。でも、どこを探しても誰もいないんです。それなのに、足跡は確実に動いている。リビングから廊下、キッチン……しまいには、僕の部屋の前で足跡が止まったんです。」
彼はその時の恐怖を思い出し、声を小さくした。
「僕が部屋のドアを開けようとした瞬間、足跡が急に消えたんです。何もいなくなって、ただ静けさだけが残って……でも、消えた瞬間、すごく冷たい空気を感じました。目が覚めた時も、その冷たさが残っていた気がします。」
「その夢から覚めた後、何か変わった感覚はありましたか?」
「起きた後もしばらく怖くて、部屋の外に出られませんでした。『もし夢の中の足跡が現実にも現れたらどうしよう』って考えてしまって。結局、何もなかったんですけど、あの足跡のことを思い出すと、今でもゾッとします。」
彼の話を聞きながら、私はその夢が彼に何を伝えようとしているのかを考えた。
「その足跡は、もしかするとあなたが心の奥底で感じている不安や、見えない何かに対する恐れを象徴しているのかもしれませんね。最近、何か気になることやストレスになるようなことはありませんでしたか?」
彼は少し考え込み、静かに答えた。
「そういえば、最近仕事で感じているプレッシャーが大きくて……自分では大丈夫だと思ってたけど、夢に出るくらい気持ちが追い詰められていたのかもしれません。」
診察室を後にする彼の背中を見送りながら、私はその夢が彼にとってどれほどの意味を持っているかを思い返していた。夢の中の足跡――それは、彼が見えないストレスや不安と向き合う必要があることを示しているのかもしれない。彼がその足跡の不安を解消し、心から安心できる日が来ることを願っていた。
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