怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

海に浮かぶ双眼鏡の秘密 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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【プロローグ】

休日の午後、健一は海沿いの小さな町にドライブへ出かけた。都会の喧騒を忘れたくて、人の少ない静かな砂浜を目指したのだ。

到着したのは、地元の人でもあまり訪れないような寂れた海岸。打ち寄せる波の音だけが響くその場所には、不思議なほどの静けさが漂っていた。

「いい場所だな…」

砂浜に腰を下ろし、海をぼんやり眺めていると、波間に何かが浮かんでいるのが目に留まった。それは、双眼鏡だった。

【波間に浮かぶ双眼鏡】

「こんなところに双眼鏡?」

健一は興味を惹かれ、波打ち際まで歩いていった。拾い上げると、意外にも双眼鏡は古びておらず、むしろ新品のようにピカピカだった。

「誰かが落としていったのかな…」

誰もいない砂浜で持ち主を探すわけにもいかず、とりあえずその双眼鏡を手に取って海を覗いてみた。

【双眼鏡の異変】

双眼鏡を通して見た海は、どこか奇妙だった。水平線の向こうに、小さな船のようなものが見える。

「こんなところに船が?」

裸眼で見ても何も映らないのに、双眼鏡を通すとはっきりと見えるのだ。その船には誰かが乗っているようだった。

黒いシルエットが二つ――まるでこちらをじっと見ているようだ。

「気味が悪いな…」

健一は双眼鏡を下ろした。しかし、どうにも気になり、再び覗き込む。すると今度は、海岸線の方に視線が引き寄せられた。

【映るものの正体】

双眼鏡を通して見ると、何かが砂浜を這うように動いていた。

それは人の形をしているが、異様に手足が長く、ひょろひょろとした動きでこちらに向かってくる。

「なんだ、あれ…!?」

慌てて双眼鏡を下ろして裸眼で確認したが、そこには何もいない。

「気のせいか…?」

恐る恐る双眼鏡を再び覗き込むと、その影はさらに近づいており、今度は明らかに顔が見えた。

肌は蒼白で、目は黒く大きい。口が異様に裂けており、そこからかすかに声が漏れているようだった。

【双眼鏡を捨てる】

恐怖に駆られた健一は双眼鏡を砂浜に叩きつけた。

「こんなもの、持ってられるか!」

そのまま車に戻り、急いでその場を離れた。

翌日、健一は友人に昨日の出来事を話したが、笑って流されるだけだった。だが、その夜、家に帰ると玄関先に昨日の双眼鏡が置かれていた。

【戻ってきた双眼鏡】

「なんでこれが…?置いてきたはずだろ…」

恐る恐る双眼鏡を手に取ると、レンズには砂浜で見た黒い影が映っていた。今度はさらにはっきりと姿を現しており、まるで部屋の中にいるような錯覚を覚えるほどだった。

突然、背後で何かが動く音がした。振り返ると、暗闇の中からあの蒼白な顔が現れ――

【エピローグ】

翌朝、近所の住民が警察に通報した。健一の家が荒らされており、彼の姿が見当たらないという。

警察が室内を調べたところ、玄関に双眼鏡が置かれていた。その双眼鏡を通して見た者は皆、砂浜に漂う小さな船と、蒼白な影を目撃したという。

もし海で奇妙な双眼鏡を見つけても、絶対に拾わないでください。それを覗くとき、あなたの背後には何かが待っているかもしれません。



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