海はどこか心を落ち着かせる場所だと思っていた。
その日、僕は休日を利用して、人気の少ない海辺へドライブに出かけた。普段の喧騒から離れ、一人で波の音を聞きながら過ごすのが目的だった。
海に着くと、展望台のある駐車場に車を止め、持参した双眼鏡を取り出した。
双眼鏡越しに見る景色は格別で、海鳥が舞い、遠くには小さな漁船が浮かんでいるのが見えた。その日は快晴で、水平線がはっきりと見える。
だが、あの時双眼鏡を手にしなければ、あんな奇妙な体験をすることはなかっただろう――。
目次
海の中の人影
双眼鏡で遠くの景色を眺めていると、ふと視界の端に何かが動くのが見えた。
「……人?」
双眼鏡を動かして確認すると、それは確かに人のように見えた。
しかし、その人物は奇妙な場所に立っていた――海の中だ。
波打ち際でもなく、かなり沖の方。普通なら腰の高さどころか完全に沈んでしまうはずの深さの場所に、何かが立っているように見えた。
その人影はじっとこちらを見ているようで、動く気配がない。
動き始める人影
最初は目の錯覚だと思い、何度も双眼鏡を下ろして裸眼で確認した。だが、やはり海の中に人影が見える。
「おかしい……」
さらに観察していると、その人影がゆっくりと動き始めた。
歩いている――いや、波の上を滑るように進んでいる。
何かを探しているようにも見えるし、こちらに向かってきているようにも感じた。
突然、強い寒気が背筋を走った。
誰もいないはずの海
怖くなり、双眼鏡を下ろした。その瞬間、人影は完全に見えなくなった。
「……いない?」
再び双眼鏡を覗くが、人影は消えている。
「見間違いだったのか?」
そう思い、双眼鏡をしまおうとした時、背後から声が聞こえた。
「見つけた……」
振り返ったが、誰もいない。駐車場には僕の車以外停まっておらず、人気もない。
「気のせいだ……」
そう自分に言い聞かせ、展望台を後にした。
調査で知った事実
帰宅しても、あの人影が頭から離れなかった。
気になって、あの海辺について調べてみたところ、驚くべき事実を知った。
数年前、その海域で行方不明者が出ていたのだ。目撃情報はあったものの、救助隊が到着した時には誰もいなかったという。
さらに調べを進めると、同じ展望台で奇妙な目撃談がいくつも寄せられていることが分かった。
「海の中に人が立っていた」
「双眼鏡で見たら、人影がこちらを見ていた」
どれも僕が体験したものと似ていた。そして、その人影を見た者は、必ず「何者かに見られている」感覚に悩まされるという。
その後
それから数週間、僕の生活には異変が起きている。
窓の外に誰もいないのに気配を感じたり、鏡越しに誰かが背後にいる気がしたりする。
ただの気のせいだと思いたい。だが、夜になると、あの声がはっきりと聞こえるようになった。
「見つけた……」
二度とあの展望台には行かないと心に決めているが、時々夢にあの人影が現れる。
水平線の向こうからこちらをじっと見つめるその目が、今でも忘れられない――。
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