日常の中には時折、説明のつかない出来事が紛れ込むことがある。それが起きたのは、夏の終わりのことだった。
仕事帰りに車を運転していた僕は、いつも通るトンネルへと差しかかった。地方の山間部にある細長いトンネルで、昼間でも薄暗い。
トンネルの入り口が見えてきた時、ふと違和感を覚えた。
「……ノイズ?」
視界に一瞬、テレビのノイズのようなものが走った気がしたのだ。
「気のせいだろう。」
そう自分に言い聞かせながら、車をトンネルへと進めた。
目次
トンネルを抜けた先
トンネルの出口が近づき、いつもの景色が見えるはずだった。
だが、トンネルを抜けた瞬間、僕は目を疑った。
森が広がっているのは変わらない。しかし、そこに立つ木々が奇妙だった。
葉の色が青みがかった紫で、幹が波打つようにうねっている。見たこともない木ばかりだ。
「ここ、本当にあのトンネルの先か?」
助手席に置いたスマートフォンで地図を確認しようとしたが、画面にはエラー表示が出ているだけだった。
「圏外か……。」
焦る気持ちを抑えつつ、車を進めるとやがて町が見えてきた。
奇妙な街並み
街に入った僕は、再び驚愕した。
家々がどれも異様なのだ。壁は斜めに傾き、窓は歪んだ形。煙突が空に向かってねじれて伸びている家もあれば、まるで立方体を積み重ねたような建物もある。
しかし、そこに人の気配はあった。道を歩く人々の姿が見える。
「すみません!」
車を停め、通りすがりの女性に声をかけた。
だが、彼女はこちらを一瞥するだけで、そのまま去っていった。
「何なんだよ、ここ……」
次に声をかけた老人も同じ反応。焦点があっておらず、まるで僕の存在が見えていないかのようだった。
時間の感覚が失われる
街を彷徨ううちに、時間の感覚が失われていった。
時計を見るとまだ夕方のはずだが、空の色は不気味な赤紫に染まっている。
一軒の店の前で車を停め、外に出た。店の看板には文字が書かれていたが、まったく読めない記号のようなものだった。
恐る恐る店の中を覗くと、奇妙な形をした品物が所狭しと並べられていた。だが、店員はどこにもいない。
突然、背後から声が聞こえた。
「帰り道を探しているのか?」
帰り道
振り返ると、そこにはフードを深く被った人物が立っていた。顔は影に隠れて見えないが、声は低く、落ち着いた口調だった。
「この街はお前のいるべき場所じゃない。」
彼はそう言うと、手である方向を指した。
「トンネルは閉じる前に戻れ。それができなければ、二度と帰れない。」
質問をする間もなく、彼の姿は消えた。
トンネルへの帰路
急いで車に戻り、指し示された方向へと走った。
周囲の景色はさらに歪み、空の赤紫は濃くなっていく。気がつけば、車内の空気が重苦しくなり、窓に奇妙な模様が浮かび上がっていた。
やがて、見覚えのあるトンネルが目の前に現れた。
迷わず車を突っ込ませると、再び視界にノイズが走った。
元の世界
トンネルを抜けた瞬間、僕はようやく見慣れた景色に戻ってきた。
スマートフォンの画面にも電波が戻り、時計を確認すると時間も正常だった。
だが、街に戻ってからも、あの光景は頭から離れない。
あの場所はどこだったのか
その後、何度もあのトンネルを訪れたが、異世界のような光景に出会うことは二度となかった。
あのフードの男が言った「閉じる前」という言葉が気になっている。もしあの時戻ることができなかったら――僕は今どこにいたのだろうか。
時折、ふとした瞬間に、あの街で見た奇妙な家々や歪んだ看板が頭をよぎる。
果たしてあれは夢だったのか、それとも……。
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