目次
母を失った日から始まった日常
今から10年ほど前の話です。私がまだ中学生だった頃、妹を出産した直後に母が亡くなりました。
突然の別れに悲しむ間もなく、私の生活は劇的に変わりました。
父は仕事が忙しく、週休2日とはいえ土日は必ず出勤。残された私は、妹の面倒を見ると同時に家事もこなさなければなりませんでした。
最初は慌ただしい日々に戸惑いましたが、やがて慣れていきました。妹が保育園に通い始めると、少しだけ自分の時間ができ、ほんの少し楽になったことを覚えています。
妹がお昼寝中に起きた不思議な出来事
妹が1歳になった頃のお昼のことです。
妹が昼寝をしていると、突然体を起こしました。目を閉じたまま、まるで誰かが操るようにスッと座り直しました。
「何だろう……？」
驚いて見守っていると、信じられないことが起きました。妹の口から聞こえてきたのは、亡き母の声だったのです。
「大丈夫？無理しすぎてない？」
母の声は、私に優しく語りかけてきました。
私は驚きながらも、「お母さん？」と声をかけると、その声が続きました。
「そうだよ。ごめんね、急にいなくなっちゃって。でも、ずっと見てるから。」
母との特別な会話
最初は驚きと恐怖が入り混じりましたが、母の声を聞いているうちに不思議と安心感が広がりました。
「大変だよね。でも、あなたはよく頑張っている。」
そう言われて、私は思わず「大変だけど、つらいとは思ってないよ」と答えました。そして、妹が可愛くて仕方ないことや、父も一生懸命頑張っていることを伝えました。
母の声は「それを聞けて安心した」と穏やかに返してくれました。
それから何度か、妹が昼寝中に母の声で話すことが続きました。私はそのたびに最近の出来事や嬉しかったこと、悩み事を母に話すのが楽しみになっていました。
会話の終わりとその後
しかし、妹が年長になり、小学生になる頃にはお昼寝の時間が減り、母の声を聞くことは少なくなっていきました。
小学1年生の終わりごろ、妹が昼寝をしても母の声は聞こえなくなりました。
「もう、お母さんは出てこないのかな……。」
少し寂しい気持ちがありましたが、同時に母が言った「あなたなら大丈夫」という言葉が私の支えになっていました。
いま、振り返る時間
あれから10年が経ちました。私は社会人になり、妹も中学生になりました。
妹はあの頃のことを覚えていません。それでも、母の声を聞いたあの時間は、私にとってかけがえのない思い出です。
あの出来事が夢だったのか、幻覚だったのか、それとも本当に母が妹を通して話しかけてくれたのかはわかりません。
ただ一つだけ言えるのは、あの時間が私にとってどれだけ大きな支えになったかということです。
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