朝、私はいつもと同じ時間に目を覚ました。部屋のカーテン越しに差し込む光がやけに薄暗く感じられたのを除けば、特に変わったことはなかった――その時はそう思っていた。
目次
奇妙な朝の始まり
起き上がり、窓の外を眺めると、そこには見慣れない風景が広がっていた。いつもなら見えるはずの隣のアパートやコンビニがなく、代わりに灰色の曇り空の下、静まり返った広大な荒野が広がっている。
「……夢だよな?」
そう自分に言い聞かせながらも、現実感のある空気や肌寒さに、徐々に恐怖が込み上げてきた。とにかく家を出て、周囲を確かめるしかないと思った。
異世界に一つだけあった公衆電話
外に出ると、荒野の中に一本だけ伸びるアスファルトの道が見えた。道沿いには何もない。ただ、少し歩くと目の前に一台の公衆電話ボックスが現れた。
「こんなところに…?」
ボックスは古びていて、風にさらされて長い間放置されていたかのようだった。周囲には他に何もないため、ここが何かの手がかりになるかもしれないと、私は中に入った。
電話機は正常に動作しているように見えた。受話器を持ち上げると、ダイヤル音が聞こえる。
「誰かに連絡できるかもしれない。」
私は自分のスマートフォンの番号を試しにダイヤルしてみた。すると、電話はすぐに繋がった。
電話の向こうの声
「……もしもし?」
受話器越しに聞こえたのは、自分の声だった。
「……え?」
混乱して声を出せない私に向かって、電話の向こう側の「私」が続けた。
「早く戻らないと、ここに閉じ込められるよ。」
「どういうことだ?」と問い返そうとした瞬間、電話は一方的に切れた。ボックスの中には、ただの静けさが戻っただけだった。
時間の感覚が失われる
その後、どれだけ歩き回っても、荒野と道は終わらない。どこまで行っても、同じような風景が続くだけだった。
そして奇妙なことに、周囲はいつまでも薄暗いまま、時間が進んでいないように感じられた。疲れ果てて再び公衆電話の前に戻ってきた頃には、日付や時間の感覚さえ失っていた。
再び鳴り出す電話
ボックスに入って座り込んでいると、電話機の画面が突然点灯し、番号が表示された。それは見覚えのある数字――私の自宅の固定電話番号だった。
震える手で受話器を取ると、今度は母の声が聞こえた。
「○○(私の名前)、大丈夫?何をしているの?」
懐かしい声に安堵する間もなく、次の瞬間には母の声が低く変わり、全く異なる人物のものになった。
「早く逃げなさい。」
その声は、あの荒野全体から響いてくるかのようだった。私は受話器を放り出し、電話ボックスから飛び出した。
現実への帰還
走り出したその瞬間、視界がぼやけ、全身が軽く浮くような感覚に襲われた。次に目を覚ました時、私は自分のベッドに戻っていた。窓の外はいつもの街並みが広がり、朝の光が差し込んでいた。
夢だったのか、それとも現実だったのか――ただ一つだけ確かなのは、自宅の机の上に置かれていたものだ。
それは、あの異世界にあった公衆電話の受話器だった。
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