目次
【プロローグ】
私は天涯孤独だ。
親も早くに亡くなり、親戚もいない。友人付き合いが面倒に感じる性格のせいで、他人との交流をほとんど持たずに生きてきた。だが、それが苦痛だと思ったことは一度もない。
質素に暮らし、近所を散歩し、静かな部屋で一人過ごす――それが何よりも心地よかった。
世間がFIRE(早期リタイア)を目指す流れに乗り、数年前に仕事を辞めた今、私は完全に「自由」な生活を手に入れていた。
今年もお正月がやってきたが、浮かれる世間を横目に、私には特にすることもなく、いつもと変わらない一日が始まる…はずだった。
【新年の散歩】
元旦の朝、私はいつものように近所の散歩に出かけた。
寒さが身にしみる早朝の空気の中、住宅街の通りは静まり返っている。初詣に出かけたのか、人影はほとんど見えなかった。
そんな中、ふと路地の奥に、見覚えのない建物が目に入った。
【見覚えのない建物】
それは古びた一軒家のようだったが、妙に新しい感じもする。扉には「FIREセンター」と書かれた木の札が掛かっていた。
「こんなところにこんな建物があっただろうか…?」
不思議に思いながらも、興味を惹かれた私は近づいてみることにした。
【奇妙な案内人】
扉を開けると、中は思った以上に広く、古風な和室が広がっていた。畳の上に座布団が並び、中央には一人の老人が座っていた。
「いらっしゃいませ。」
老人は柔らかな声で言った。
「ここは何の施設なんですか?」
「FIREを達成した方々が訪れる場所ですよ。」
老人の言葉に、私は思わず笑ってしまった。
「達成者が訪れる場所?そんなの聞いたことないですが。」
「ふふ、ここはね、FIREを本当に理解した方だけが見つけられる場所なんですよ。」
【奇妙な提案】
老人は私に座るよう促し、お茶を淹れてくれた。
「あなた、FIREを達成して今は自由な生活を送っているのでしょう?」
「まあ、そうですね。一応、資産運用で生活は成り立っていますし、仕事はしていません。」
「では、次の段階へ進んでみませんか?」
「次の段階?」
老人は微笑みながら一枚の紙を差し出した。そこには見慣れない言葉が並んでいた。
「完全なる自由を得るための契約」
「これは何ですか?」
「この契約書にサインすれば、今まで以上に自由になれるんですよ。物質的な束縛だけでなく、時間や空間の束縛も取り払われるのです。」
【契約の決断】
私は訝しげにその紙を眺めた。
「時間や空間の束縛を取り払うって、どういう意味ですか?」
「まあ、試してみれば分かりますよ。」
老人は微笑むだけで、それ以上の説明をしなかった。
「…怪しい話ですね。」
私は立ち上がり、その場を離れようとしたが、ふとした興味が湧いてきた。
「もしこれが本当なら…?」
半信半疑のまま、私は紙に名前を書き込んだ。
【変化の始まり】
その瞬間、視界が歪み、目の前の景色が一変した。
私は自分の部屋に立っていたが、何かが違う。家具は同じなのに、微妙に色合いが異なり、壁の模様も見覚えのないものだった。
「…これは?」
外に出ると、街並みもどこか現実離れしている。静まり返った街に、人影はまったく見当たらない。
【完全なる孤独】
その後、どれだけ歩き回っても誰とも出会わなかった。
道端の家々には灯りが灯っているのに、人の気配がない。店もすべて無人だった。
「これが…完全なる自由…?」
孤独が好きだった私だが、この状況はさすがに不気味だった。
【元の世界への帰還】
再び「FIREセンター」に戻ろうとしたが、建物は影も形もなくなっていた。
途方に暮れていると、ふと頭の中に老人の声が響いた。
「これがあなたが望んだ自由ですよ。」
その言葉に、私は愕然とした。
【エピローグ】
それ以来、私は元の世界に戻れないままだ。
この場所では誰も私を邪魔しない。完全な自由を得たと言えるかもしれないが、これが本当に望んでいたことなのかは分からない。
もし、あなたがFIREを目指しているのなら――その先に待つ自由がどんな形なのか、よく考えてみるべきだろう。
■おすすめ
マンガ無料立ち読み
1冊115円のDMMコミックレンタル!
人気の漫画が32000冊以上読み放題【スキマ】
人気コミック絶賛発売中!【DMMブックス】
ロリポップ!
ムームーサーバー
新作続々追加!オーディオブック聴くなら - audiobook.jp
新品価格 |
ページをめくってゾッとする 1分で読める怖い話 [ 池田書店編集部 ] 価格:1078円 |