目次
【プロローグ】
その薬局は、街の外れの古びた商店街にひっそりと佇んでいた。
私はその日、仕事帰りに風邪薬を買うために薬局を探していたのだが、どういうわけかその店にたどり着いていた。
「こんなところに薬局があったっけ?」
看板には、かすれた文字で「霧野薬局」と書かれていた。見た目は古くて薄暗く、入りにくい雰囲気だったが、風邪の初期症状で体がだるかった私は仕方なくその扉を開けた。
【奇妙な薬局】
店内は外観とは裏腹に、驚くほど整理されていた。木製の棚には無数の薬瓶や小箱が整然と並べられ、どこか古い図書館を思わせる香りが漂っていた。
カウンターには、白髪交じりの初老の店主が立っていた。
丸眼鏡越しに私を見るその目は、まるで私の全てを見透かしているようだった。
「いらっしゃいませ。風邪薬ですか?」
私が何も言わないうちに、店主は静かに言葉を紡いだ。
「は、はい…風邪薬が欲しいんですが。」
「ちょうど良いものがありますよ。」
店主はカウンターの奥の棚から、古びた小瓶を取り出した。
【出された薬】
その小瓶にはラベルが貼られており、「万能風邪薬」と書かれていた。ただ、ラベルの端が少し剥がれていて、文字もかすれている。
「これ、効くんですか?」
「もちろん。飲めば一晩で良くなります。」
疑いつつも、その場で説明を聞くのが面倒だった私は、小瓶を買うことにした。値段は意外と安く、普通の風邪薬と同じくらいだった。
【薬の効果】
家に帰ると、さっそく薬を飲んでみた。
小瓶の中には透明な液体が入っており、ほんのり甘い香りがした。口に含むと、薬というよりは上品なジュースのような味だった。
「これ、本当に薬か…?」
半信半疑で布団に入り、眠りについた。
【目覚めた翌朝】
翌朝、私は驚くほど体が軽くなっていた。風邪の症状は完全に消え、むしろいつも以上に元気だった。
「すごいな、この薬…」
信じられない思いで小瓶を手に取ったが、そこには新たな変化があった。
ラベルが剥がれ落ち、その下に別の文字が現れていたのだ。
「用途:全身調整」
「全身調整…?」
その言葉の意味は分からなかったが、特に気にせずその日は仕事に出かけた。
【薬の奇妙な副作用】
それから数日後、私の体に小さな異変が起き始めた。
手足が以前よりも器用に動くようになり、目が少しだけ良くなった気がした。さらに、仕事で計算をすると、いつもより頭の回転が速くなっていることに気づいた。
「この薬…風邪薬じゃないのか?」
私はもう一度、あの薬局を訪れることにした。
【再訪した薬局】
再び薬局を訪れると、店主は私を見るなり微笑んだ。
「どうです?薬の効果は。」
「…この薬、ただの風邪薬じゃないですよね?」
店主は小さく頷き、静かに答えた。
「そうですね。あなたにお売りしたのは、体の調子を根本から整える薬です。」
「体を整える…?」
「そう。肉体も精神も最適な状態に保つ。ただ、それはあなた自身が本来持っている能力を最大限に引き出すだけで、特別な力を与えるわけではありません。」
【さらに奇妙な事実】
店主の言葉に半信半疑だったが、その後も体調は驚くほど良くなり続けた。
頭が冴え、体力がつき、以前よりも感覚が鋭くなった気がする。
しかし、ある日突然、ふと気づいたことがあった。
「最近、疲れを感じなくなったな…」
それは一見良いことのように思えたが、どこか不自然だった。
【最後の訪問】
私は再び薬局を訪れ、店主に尋ねた。
「疲れも痛みも感じなくなったんですが、これは…普通ですか?」
店主はしばらく黙った後、こう答えた。
「それがこの薬の特性です。あなたはもう『完全な調整』が完了しました。これ以上の薬は必要ありません。」
「でも…これって本当に良いことなんですか?」
「それはあなた自身が判断することです。」
店主の言葉に曖昧な答えを残されたまま、私は薬局を後にした。
【エピローグ】
その後、私は二度とその薬局を見つけることができなかった。
体調は依然として絶好調だが、時折自分の体が機械のように正確に動いているように感じる。
もし、街角で奇妙な薬を見つけたら――その効能をよく考えてから手に取るべきだろう。それがあなたをどこへ導くのか、誰にも分からないのだから。
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